事件の概要
X(原告・控訴人・上告人)らは,昭和51年から昭和56年まで,女性デュオを結成し,歌手として活動をしていた者である。Xらは,子供から大人に至るまで幅広く支持を受け,その曲の振り付けをまねることが全国的に流行した。
Y(被告・被控訴人・被上告人)は,書籍,雑誌等の出版,発行等を業とする会社であり,Xらを被写体とする14枚の写真を掲載した週刊誌(以下「本件雑誌」という。)を発行した。
写真の掲載の態様は次の通りである。
@本件雑誌16頁右端の見出しの上部には,歌唱しているXらを被写体とする縦4.8p,横6.7pの写真が1枚掲載されている。
A本件雑誌16頁及び17頁には上下2段に分けて各1曲の振り付けを,同18頁の上半分には残りの1曲の振り付けをそれぞれ利用したダイエット法が解説されている。上記の各解説部分には,それぞれのダイエット効果を記述する見出しと4コマのイラストと文字による振り付けの解説などに加え,歌唱しているXらを被写体とする縦5p,横7.5pないし縦8p,横10pの写真が1枚ずつ,タレント(以下「本件解説者」という。)を被写体とする写真が1枚ないし2枚ずつ掲載されている。
B 本件雑誌17頁の左端上半分には,Xらの曲の振り付けを利用したダイエット法の効果等に関する記述があり,その下には水着姿のXらを被写体とする縦7p,横4.4pの写真が1枚掲載されている。また,同頁の左端下半分には,本件解説者が子供の頃にXらの曲の振り付けをまねていたなどの思い出等を語る記述がある。
C本件雑誌18頁の下半分には,上告人らを被写体とする縦2.8p,横3.6pないし縦9.1p,横5.5pの写真が合計7枚掲載されている。その下には,本件解説者とは別のタレントが上記同様の思い出等を語る記述があり,その左横には,上記タレントを被写体とする写真が1枚掲載されている。
Xらは,このYの行為により,Xらの肖像が有する顧客吸引力を排他的に利用する権利が侵害されたとして,Yに対し不法行為に基づく損害賠償を求めた。
1審、2審は、Yの行為がXらのパブリシティ権の侵害に該当しないと判断し、Xらの請求を棄却した。
Xらは、これを不服として、上告した。
判旨
人の氏名,肖像等(以下,併せて「肖像等」という。)は,個人の人格の象徴であるから,当該個人は,人格権に由来するものとして,これをみだりに利用されない権利を有すると解される(氏名につき,最高裁昭和58年(オ)第1311号同63年2月16日第三小法廷判決・民集42巻2号27頁,肖像につき,最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁,最高裁平成15年(受)第281号同17年11月10日第一小法廷判決・民集59巻9号2428頁各参照)。そして,肖像等は,商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり,このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は,肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから,上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる。他方,肖像等に顧客吸引力を有する者は,社会の耳目を集めるなどして,その肖像等を時事報道,論説,創作物等に使用されることもあるのであって,その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるというべきである。そうすると,肖像等を無断で使用する行為は,@肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,A商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し,B肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,パブリシティ権を侵害するものとして,不法行為法上違法となると解するのが相当である。
これを本件についてみると,Xらは,昭和50年代に子供から大人に至るまで幅広く支持を受け,その当時,その曲の振り付けをまねることが全国的に流行したというのであるから,本件各写真のXらの肖像は,顧客吸引力を有するものといえる。
しかしながら,本件記事の内容は,Xらそのものを紹介するものではなく,前年秋頃に流行していたXらの曲の振り付けを利用したダイエット法につき,その効果を見出しに掲げ,イラストと文字によって,これを解説するとともに,子供の頃にXらの曲の振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するというものである。そして,本件記事に使用された本件各写真は,約200頁の本件雑誌全体の3頁の中で使用されたにすぎない上,いずれも白黒写真であって,その大きさも,縦2.8p,横3.6pないし縦8p,横10p程度のものであったというのである。これらの事情に照らせば,本件各写真は,上記振り付けを利用したダイエット法を解説し,これに付随して子供の頃に上記振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するに当たって,読者の記憶を喚起するなど,本件記事の内容を補足する目的で使用されたものというべきである。
したがって,Yが本件各写真をXらに無断で本件雑誌に掲載する行為は,専らXらの肖像の有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえず,不法行為法上違法であるということはできない。