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平成13(受)216 著作権侵害差止等請求事件

>判例・裁判例>著作権・著作隣接権(著作権の主体)判例・裁判例>

事件の概要

 X(原告・控訴人・被上告人)は,中華人民共和国国籍のデザイナーである。
 Y(被告・被控訴人・上告人)は,アニメーション等の企画,撮影等を業とする株式会社である。
 Xは,平成5年7月15日に来日して同年10月1日に出国した後,同月31日に来日して同6年1月29日に出国し,さらに,同年5月15日に来日し,それ以降我が国に滞在した。この1回目及び2回目の来日はいわゆる観光ビザによるもの,3回目の来日はいわゆる就労ビザによるものであった(以下,それぞれの来日を「1回目の来日」などという。)。
 Xは,1回目の来日の直後から,Yの従業員宅に賄い付きで居住し(その費用はYが負担した。),Yのオフィスにおいて作業をした。Xは,Yから,1回目及び2回目の来日期間並びに各来日の後に帰国した期間を含む平成5年8月分から同6年2月分までとして,毎月,基本給名目で金銭の支給を受けた。ただし,雇用保険料,所得税等の控除はされていなかった。Yは,上記各支払の都度,その内訳を明記した給料支払明細書をXに交付していた。なお,この当時,Xにつきタイムカードや欠勤届,外出届等による勤務管理はされていなかった。
 Xは,1回目の来日をした平成5年7月ころから3回目の来日後である同6年11月ころまでの間,Yが企画したアニメーション作品等のキャラクターとして用いるために,図画(以下「本件図画」と総称する。)を作成した。Yは,本件図画を使用して,70ミリ・シージー・ステイション・シミュレーション・ライド・フィルム「アール・ジー・ビー・アドベンチャー」(以下「本件アニメーション作品」という。)を製作し,これを日本国内のテーマパークにおいて上映した。Xの氏名は,本件アニメーション作品に本件図画の著作者として表示されていない。
 Xは,Yに対し,退職届を提出した。
 その後,Xは,本件図画についての著作権及び著作者人格権に基づいて,Yに対し,本件アニメーション作品の頒布等の差止め及び損害賠償を求めて提訴した。Yは,本件図画はXがYとの間の雇用契約に基づいて職務上作成したものであるから,著作権法15条1項の規定により,その著作者はYであると主張した。
 1審では、Xの最初の観光ビザで来日した時点でのXとYとの雇用契約の成立を認め、Xが著作権法第15条の法人等の業務に従事する者に該当するとし、Xの請求を棄却した。これに対し、Xは控訴した。
 原審では,1回目と2回目の来日には,Xがいわゆる就労ビザを取得していなかったこと,YがXに対し就業規則を示して勤務条件を説明したと認められないこと,雇用契約書の存在等の雇用契約の成立を示す明確な客観的証拠がないこと,雇用保険料,所得税等が控除されていなかったこと,タイムカード等による勤務管理がされていなかったことに照らすと,3回目の来日前に,XとYとの間に雇用契約が成立したと認めることはできない。したがって,本件図画はXがYの業務に従事する者として作成したものではなく,Yがその著作者であるとすることはできないから,Yによる本件アニメーション作品の製作等は,X被上告人の著作権及び著作者人格権の侵害に当たるとして,Xの請求を認容した。
 Yは、これを不服として、上告した。

判旨

 著作権法15条1項は,法人等において,その業務に従事する者が指揮監督下における職務の遂行として法人等の発意に基づいて著作物を作成し,これが法人等の名義で公表されるという実態があることにかんがみて,同項所定の著作物の著作者を法人等とする旨を規定したものである。同項の規定により法人等が著作者とされるためには,著作物を作成した者が「法人等の業務に従事する者」であることを要する。そして,法人等と雇用関係にある者がこれに当たることは明らかであるが,雇用関係の存否が争われた場合には,同項の「法人等の業務に従事する者」に当たるか否かは,法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに,法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり,法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを,業務態様,指揮監督の有無,対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して,判断すべきものと解するのが相当である。
 これを本件についてみると,上述のとおり,Xは,1回目の来日の直後から,Yの従業員宅に居住し,Yのオフィスで作業を行い,Yから毎月基本給名目で一定額の金銭の支払を受け,給料支払明細書も受領していたのであり,しかも,Xは,Yの企画したアニメーション作品等に使用するものとして本件図画を作成したのである。これらの事実は,XがYの指揮監督下で労務を提供し,その対価として金銭の支払を受けていたことをうかがわせるものとみるべきである。ところが,原審は,Xの在留資格の種別,雇用契約書の存否,雇用保険料,所得税等の控除の有無等といった形式的な事由を主たる根拠として,上記の具体的事情を考慮することなく,また,XがYのオフィスでした作業について,Yがその作業内容,方法等について指揮監督をしていたかどうかを確定することなく,直ちに3回目の来日前における雇用関係の存在を否定したのである。そうすると,原判決には,著作権法15条1項にいう「法人等の業務に従事する者」の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ず,論旨は理由がある。
 以上によれば,原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決中Y敗訴部分は破棄を免れない。

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