事件の概要
X(原告・被上告人)は、発明の名称を放出制御組成物とする特許権を有する特許権者である。
Xは、特許発明に係る本件医薬品につき、薬事法14条1項による製造販売の承認(以下「本件処分」という。)を受けた。
その後、Xは、本件処分を受けることが必要であるために本件特許権の特許発明の実施をすることができない期間があったとして,本件特許権の存続期間の延長登録出願を行なった。
しかし、この出願について拒絶査定を受けたことから,Xは、これを不服として拒絶査定不服審判の請求をした。この拒絶査定不服審判において、特許庁は,本件処分よりも前に,本件医薬品と有効成分並びに効能及び効果を同じくする本件先行医薬品について本件先行処分がされているのであるから,本件特許権の特許発明の実施について,本件処分を受けることが必要であったとは認められないとして,上記審判の請求を不成立とする審決(以下「本件審決」という。)を行なった。
Xは、この審決を不服として審決取消訴訟を提起したところ、知財高裁は本件審決を取り消した。特許庁長官は、これを不服として、上告した。
なお、本件先行医薬品は,本件特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないことについては争いはない。
判旨
特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった薬事法14条1項による製造販売の承認(以下「後行処分」という。)に先行して,後行処分の対象となった医薬品(以下「後行医薬品」という。)と有効成分並びに効能及び効果を同じくする医薬品(以下「先行医薬品」という。)について同項による製造販売の承認(以下「先行処分」という。)がされている場合であっても,先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは,先行処分がされていることを根拠として,当該特許権の特許発明の実施に後行処分を受けることが必要であったとは認められないということはできないというべきである。なぜならば,特許権の存続期間の延長制度は,特許法67条2項の政令で定める処分を受けるために特許発明を実施することができなかった期間を回復することを目的とするところ,後行医薬品と有効成分並びに効能及び効果を同じくする先行医薬品について先行処分がされていたからといって,先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しない以上,上記延長登録出願に係る特許権のうち後行医薬品がその実施に当たる特許発明はもとより,上記特許権のいずれの請求項に係る特許発明も実施することができたとはいえないからである。そして,先行医薬品が,延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは,先行処分により存続期間が延長され得た場合の特許権の効力の及ぶ範囲(特許法68条の2)をどのように解するかによって上記結論が左右されるものではない。
本件先行医薬品は,本件特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないのであるから,本件において,本件先行処分がされていることを根拠として,その特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められないということはできない。
以上によれば,本件先行処分がされていることは,本件特許権の特許発明の実施に当たり,薬事法14条1項による製造販売の承認を受けることが必要であったことを否定する理由にはならないとして,本件審決を違法であるとした原審の判断は,正当として是認することができる。