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平成25(行コ)10001 特許分割出願却下処分取消請求控訴事件

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事件の概要

 X(控訴人・原告)は,平成12年2月15日,ドイツ特許庁を受理官庁として,同日にされた特許出願とみなされる国際出願(本件原々出願)をした後,平成22年6月8日,本件原々出願の一部を新たな特許出願(本件原出願)とし,さらに,本件原出願の特許査定の謄本の送達があった後である平成23年2月10日に至って,本件原出願の一部を新たな特許出願とする出願(本件出願)をした。
 本件出願につき,特許庁長官は,平成18年法律第55号(平成18年改正法)による改正前の特許法44条(平成14年法律第24号〈平成14年改正法〉による改正後のもの。旧44条)1項に規定する期間の経過後にされた出願であるとして出願却下の本件却下処分をした。
 Xは、これを不服とし、本件却下処分の取消しを求めて訴訟を提起した。
 原審では,本件却下処分に違法はないとして,Xの請求を棄却した。
 Xは、これを不服とし、控訴した。

判旨

 平成18年改正法は,従前,特許出願の一部を新たな特許出願とする分割出願ができる時期につき,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる期間内,すなわち,特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に制限されていたのを,旧44条1項の改正により,特許査定謄本の送達後30日以内の期間にも可能となるよう時期的制限を緩和した。
 本件出願は,本件原出願の一部を新たな出願とする分割出願であるから,本件出願が,分割をすることができる時期的制限内に行われたか否かが本件の争点である。すなわち,平成22年にされた本件原出願からの分割出願に新44条1項が適用されるならば,控訴人による本件出願は分割出願の時期的制限内に行われたものとして適法となり,新44条1項が適用されないならば,分割出願の時期的制限を徒過したものとして,不適法となるという関係にある。
 平成18年改正法附則3条1項は,同法による改正に伴う経過措置として,「第2条の規定による改正後の特許法第17条の2,第17条の3,第36条の2,第41条,第44条,第46条の2,第49条から第50条の2まで,第53条,第159条及び第163条の規定は,この法律の施行後にする特許出願について適用し,この法律の施行前にした特許出願については,なお従前の例による。」旨を規定する。
 新しい法令を制定し,あるいは既存の法令を改廃する場合において,旧法秩序から新しい法秩序に移行する際には,社会生活に混乱を招いたり,不公平な適用となったりすることのないよう,一定の期間,既存の法律関係を認め,円滑に新しい法秩序に移行すべく,改正の趣旨や社会生活や法的安定性に与える影響等,種々の事情を勘案の上,経過規定が定められる。したがって,経過規定の解釈に当たっては,当該改正法の立法趣旨及び経過措置の置かれた趣旨を十分に斟酌する必要がある。一方で,その解釈には法的安定性が要求され,その適用についても明確性が求められることはいうまでもない。
 そこで,検討するに,平成18年改正法の主たる改正点は,技術的特徴が異なる別発明への補正の禁止(特許法17条の2第4項,41条,49条ないし50条の2,53条,159条,163条),分割制度の濫用防止(特許法17条の2,50条の2,53条),分割の時期的制限の緩和(特許法44条1項,5項,6項),外国語書面出願の翻訳文提出期間の延長(特許法17条の3,36条の2,44条2項,46条の2)であったところ,平成18年改正法附則3条1項は,これらの各条文の適用に当たり,審査の着手時期等によって適用される制限や基準が区々となり,手続継続中に基準が変更されて審査実務や出願人等が混乱することのないよう,各種手続の基礎となり,その時期が明確である「特許出願」を基準として,「この法律の施行後にした特許出願」に新法を適用することとしたものと解される。
 そして,上記改正後の特許法44条1項は,「特許出願人は,次に掲げる場合に限り,二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。…」と規定し,原出願の「特許出願人」が,原出願の「特許出願の一部を…新たな特許出願」とできる時期的制限や実体的要件を定めたものであるから,この規定が規律しているのは原出願である特許出願の分割についてであることが明らかである。そうすると,平成18年改正法附則3条1項にいう「この法律の施行後にする特許出願」とは,「新たな特許出願」を指すものではなく,新44条1項が規律の対象としている原出願を指しているものと考えるのが自然である。
 また,もとの特許出願の審査において既に拒絶理由通知がなされた発明をそのままの内容で再度分割するなどして,権利化時期を先延ばしにすることや,別の審査官により異なる判断がなされることを期待して同じ発明を繰り返し分割出願するといった分割制度の濫用への懸念に配慮して,同改正法は,出願人の利益を図って分割出願の時期的要件を緩和する一方で,分割制度の濫用防止のための方策を同時に改正していることから,分割の時期的要件の緩和と濫用防止策は同時に適用の移行がされることが望ましいのであり,特許法17条の2,44条,50条の2,53条について上記の経過措置を一律に制定した趣旨はこの点にある。
 なお,平成18年改正法に先立つ平成14年改正法附則3条1項が,「新特許法…の規定は,…施行日…以後にする特許出願(施行日以後にする特許出願であって,特許法第44条第2項…の規定により施行日前にしたものとみなされるもの…を含む。)について適用し,施行日前にした特許出願(施行日前の特許出願の分割等に係る特許出願を除く。)については,なお従前の例による。」と規定しているのに対し,平成18年改正法附則3条1項には,平成14年のときのように,「この法律の施行後にする特許出願」に「施行日以降にする特許出願であって,特許法44条第2項…の規定により施行日前にしたものとみなされるもの…を含む。」旨の記載はない。両者の改正附則を比較すれば,平成18年改正法附則3条1項の「この法律の施行後にした特許出願」に,新44条1項にいう「新たな出願」である分割出願が含まれるものでないことが明らかである。
 以上からすれば,平成18年改正法附則3条1項の「この法律の施行後にする特許出願」とは,新44条1項にいう「新たな特許出願」ではなく,「二以上の発明を包含する特許出願」(44条1項),すなわち,分割のもととなる原出願を指すものと解すべきである。
 本件においては,本件原出願からの分割出願が適法な時期的制限内になされたか否かが問題となるところ,平成22年にされた本件原出願自体は平成18年改正法の施行日(平成19年4月1日)以降になされているものの,本件原出願は平成12年にされた本件原々出願からの分割出願である。そして,Xは,本件原々出願の出願日の遡及の利益を求めて本件出願をしているものであり,本件原出願が本件原々出願の時に出願したものとみなされて特許査定されたことを当事者双方とも当然の前提としているところ,本件原々出願が,平成12年2月15日にしたものとみなされる国際出願であり,平成18年改正法の施行前にした出願であるから,本件原出願は本件原々出願のこの出願の時にしたものとみなされる。したがって,本件出願は,平成18年改正法の施行後にする「特許出願」からの分割ではないので,結局,本件出願について同改正法は適用されないことになる。
  以上のとおり,本件出願には,新44条1項の時期的制限緩和の適用はなく,旧44条1項所定の出願期間経過後にされたものとして不適法であって,本件却下処分に違法はない。

注記:下線は、判決文では引かれておりません。

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