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平成24(ネ)10015 損害賠償請求等事件

>判例・裁判例>特許(特許権の侵害に対する救済)判例・裁判例>

事件の概要

 X(原告=反訴被告・控訴人=被控訴人)は,ごみ貯蔵カセット及びごみ貯蔵機器に関する特許権等を有する特許権者である。
 Xは、Y(被告=反訴原告・控訴人=被控訴人)が輸入・販売等をしている製品(以下、イ号物件という)が前記特許権等を侵害するなどと主張して,イ号物件の輸入・販売等の差止め(特許法100条1項,意匠法37条1項等)及び廃棄(特許法100条2項,意匠法37条2項)を求めるとともに,損害賠償(特許法102条2項,3項,意匠法39条2項,3項,民法709条)の請求等を求めて提訴した。
 原審は,イ号物件の輸入・販売等の差止め,廃棄を認めた上で,Xは,日本国内において本件特許権を実施していたと認めることはできず,同法102条2項の推定の前提を欠き,同項に基づき損害額を算定することはできないとして,同条3項に基づき算定した損害賠償(実施料相当額)の支払等を認めた。
 これに対し,XとYは,それぞれ敗訴部分の取消しを求めて本件各控訴を提起した。

判旨

 Xは,特許法102条2項に基づく損害額の算定を主張するのに対し,Yは,Xは日本国内において本件発明1を実施していないから,同項の適用はない,仮に同項の適用があるとしても,同項による推定を覆滅する事情が認められると主張する。当裁判所は,Yの主張には理由がなく,本件において,Xに生じた損害額を算定するに当たり,特許法102条2項を適用することができ,同項による推定を覆滅する事情は認められないと判断する。その理由は,以下のとおりである。
(ア) 特許法102条2項を適用するための要件について
 特許法102条2項は,「特許権者・・・が故意又は過失により自己の特許権・・・を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において,その者がその侵害の行為により利益を受けているときは,その利益の額は,特許権者・・・が受けた損害の額と推定する。」と規定する。
 特許法102条2項は,民法の原則の下では,特許権侵害によって特許権者が被った損害の賠償を求めるためには,特許権者において,損害の発生及び額,これと特許権侵害行為との間の因果関係を主張,立証しなければならないところ,その立証等には困難が伴い,その結果,妥当な損害の塡補がされないという不都合が生じ得ることに照らして,侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは,その利益額を特許権者の損害額と推定するとして,立証の困難性の軽減を図った規定である。このように,特許法102条2項は,損害額の立証の困難性を軽減する趣旨で設けられた規定であって,その効果も推定にすぎないことからすれば,同項を適用するための要件を,殊更厳格なものとする合理的な理由はないというべきである。
 したがって,特許権者に,侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には,特許法102条2項の適用が認められると解すべきであり,特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在するなどの諸事情は,推定された損害額を覆滅する事情として考慮されるとするのが相当である。そして,後に述べるとおり,特許法102条2項の適用に当たり,特許権者において,当該特許発明を実施していることを要件とするものではないというべきである。
 以上に照らして,本件における特許法102条2項の適用の可否について検討する。
(イ) 事実認定
 前提となる事実に加え,証拠及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
a:Xと訴外Aは,平成20年10月15日,「赤ちゃん向けおむつ処理製品の販売店契約」(以下「本件販売店契約」という。)を締結した。
b :本件販売店契約に基づき,Xは,訴外Aに対し,Xが英国で製造したX製カセットを販売(輸出)し,訴外Aは,日本国内において,一般消費者に対し,上記X製カセットを販売している。
c:Xは,訴外Aとの間で,おおむね1月ないし2月ごとに定例会議を,1年に1回上層部会議を開催し,X製品の販売数量の確認,次期販売計画や販促活動の立案,拡販に向けたコンサルティングをし,販売及び販促活動につき訴外Aに対する支援などを行っている。
d:Yは,少なくとも平成21年7月30日から平成23年12月末日までの間,イ号物件を中国から輸入し,日本国内において販売した(当事者間において争いのない事実)。
e: Yのイ号物件を輸入,販売する行為は,本件特許権を侵害する。
(ウ) 判断
 上記認定事実によれば,Xは,訴外Aとの間で本件販売店契約を締結し,これに基づき,訴外Aを日本国内におけるX製品の販売店とし,訴外Aに対し,英国で製造した本件発明1に係るX製カセットを販売(輸出)していること,訴外Aは,上記X製カセットを,日本国内において,一般消費者に対し,販売していること,もって,Xは,訴外Aを通じてX製カセットを日本国内において販売しているといえること,Yは,イ号物件を日本国内に輸入し,販売することにより,訴外AのみならずXともごみ貯蔵カセットに係る日本国内の市場において競業関係にあること,Yの侵害行為(イ号物件の販売)により,X製カセットの日本国内での売上げが減少していることが認められる。
 以上の事実経緯に照らすならば,Xには,Yの侵害行為がなかったならば,利益が得られたであろうという事情が認められるから,Xの損害額の算定につき,特許法102条2項の適用が排除される理由はないというべきである。
 これに対し,Yは,特許法102条2項が損害の発生自体を推定する規定ではないことや属地主義の原則の見地から,同項が適用されるためには,特許権者が当該特許発明について,日本国内において,同法2条3項所定の「実施」を行っていることを要する,Xは,日本国内では,本件発明1に係るX製カセットの販売等を行っておらず,Xの損害額の算定につき,同法102条2項の適用は否定されるべきである,と主張する。
 しかし,Yの上記主張は,採用することができない。すなわち,特許法102条2項には,特許権者が当該特許発明の実施をしていることを要する旨の文言は存在しないこと,上記(ア)で述べたとおり,同項は,損害額の立証の困難性を軽減する趣旨で設けられたものであり,また,推定規定であることに照らすならば,同項を適用するに当たって,殊更厳格な要件を課すことは妥当を欠くというべきであることなどを総合すれば,特許権者が当該特許発明を実施していることは,同項を適用するための要件とはいえない。上記(ア)のとおり,特許権者に,侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には,特許法102条2項の適用が認められると解すべきである。
 したがって,本件においては,Xの上記行為が特許法2条3項所定の「実施」に当たるか否かにかかわらず,同法102条2項を適用することができる。また,このように解したとしても,本件特許権の効力を日本国外に及ぼすものではなく,いわゆる属地主義の原則に反するとはいえない。
 以上のとおり,Yの上記主張は採用することができず,Xの損害額の算定については,特許法102条2項を適用することができ,同項による推定が及ぶ。

注記:判決文には下線はひかれておりません。

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