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昭和50(モ)920 不正競争

>判例・裁判例>不正競争(周知商品等表示混同惹起行為)判例・裁判例>

事件の概要

 X(原告)は、訴外Aに製造依頼したステンレス製牛乳缶型容器(以下、単に本件容器という)にX製造のバター飴を入れ、ラベルおよび包装箱を使用して「北海道名産バター飴」と記したもの(以下、本件容器・ラベル・包装箱を含めてXの商品表示という)を商品として、昭和47年4月11日以降販売している。
 Y(被告)は、昭和50年3月頃、前記訴外Aに対し、X名義で、本件容器を訴外Bに販売納入させたうえ、同年4月中旬頃訴外Bから右容器にB製造にかかるバター飴を入れたものを商品として仕入れたうえ、これに更にX商品のラベル、包装箱などと同一の色を使用し、これに類似したラベル、包装箱を使用し、かつ、「北海道銘菓バター飴」と記したものを商品としてこれをその頃北海道地方において販売していた。
 Xは、YがXの商品表示と類似する商品表示を使用してXの商品と混同を生じさせているとして、Yに対し、Xの商品表示に類似する商品表示の使用差止め等を求めて提訴した。

判旨

 Xの商品とYの商品とはその牛乳缶型容器が訴外A製であり、ただXの容器の胴体部分に北海道の地図と牛のマークを組合せた打出しがあるのに、Yのそれにはこれがないことの外は外見上は全く同じであり、ラベルについてみると、Xのそれにおいては、淡黄色の単純な地に「バター飴」という商品名が黒文字で表示され、またラベルの上下部分にそれぞれ濃いオレンジ色の太線と細線の縁どりがされているのに対し、Yのそれは、空色と濃黄色の地を上下二段に斜めに分け刷りした地に、牧場の牧舎とサイロ、牧牛、牧柵等を画き、「バター飴」という商品名も黒文字を白で縁どりするというデザインを採用しているものであり、又包装箱については、周辺の部分がオレンジ色で縁どりされている点は両商品とも同じであり、Xのそれは、黄色の単色の地に、正面には黒字で「バター飴」という表示が、また他の三面には同じデザインの「バター飴」という文字が各々白字で表示され、上蓋にはローマ字で黒で会社名が表示されるという表装となつているのに対し、Yのそれは黄色と緑色の二色を上下二段にやや斜めに分け刷りした地に、正面は「バター飴」という黒文字を白で縁どりしたものを、また他の三面には「バター飴」という表示はなく、ラベル同様の牧舎とサイロ、牧牛、牧柵等を画き、上蓋には「北海道」という文字をオレンジ、緑、黒三色で北海道の地形にデザインした表示がなされており、「バター飴」という文字も、Xのそれは、丸味を帯びた筆文字で周囲に墨がにじんだ感じのデザインとなつているのに対し、Yのそれは、角張つた肉太の文字で、周囲部分をデザイン的に欠けたような感じで表示しており、文字の大きさ等も、Xのそれは、わざと文字の配列をはずした感じで箱の面全体をおおうようにデザインされているのに対し、Yのそれは、文字の配列も通常であり、大きさも比較的小型にまとめられていることを認めることができる。そうしてみるとYの本件商品表示は、バター飴の容器としてステンレス製牛乳缶型を使用したことにおいてXの商品表示と同一のものを使用したものというべく、又ラベル、包装箱の点においてXのそれと類似のものを使用したものということができ、かつYの右表示の使用は、Xの本件商品と混同を生ぜしめるものということができる。両商品が、ラベル、包装箱において全く同じ外見を有しているとはいえないが、しかしながら、不正競争防止法第一条第一項第一号においていう「他人の表示と同一若しくは類似のもの」とは、商品の出所につき誤認混同を生ずる虞があるか否かによつて決すべきであり、それには商品に使用された表示がその外観、称呼、観念等によつて取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とするのである。従つて、右類似のものというには、商品表示が細部にわたるまで完全に一致することが必要とされるわけではない。即ち、需要者は、一般的に商品購入の態度として商品を詳細に比較して購入するものではないし、又、必ず両商品が同時に販売されているわけでもないので、常に細部にわたり比較ができるわけのものでもない。そして、需要者は通常記憶している商品表示のイメージに基づいて商品の選択、購入をなすものであるから、商品表示の類似の判断に際しては、取引事情を全体として観察したうえ、一般需要者ないし取引者において、これを同一又は類似のものと考えるのが通常であるか否かによつて決すべきであるからである。そして、又、その商品表示のイメージを構成する主要な部分で共通のものがあれば、その商品表示は全体として類似があるものとみることができる。
 本件においてこれをみると、X、Yの両商品とも、その商品のイメージを構成する主要な部分は、バター飴の容器としてステンレス製牛乳缶型容器を使用していることであり、Xの本件容器の胴の部分に牛と北海道の地図のマークを組合せた打出しがあることは細部の違いに過ぎず、全体的にみれば、全く同一と考えてよいのである。そして、右ラベルについては、その色、デザインに前示程度の違いがあるが、このラベルが本件容器に付けられた場合、本件容器の特徴ある形態および素材からして、XとYの商品につき、混同が生じなくなるとは考えられない。更に包装箱についてみると、周辺の部分がオレンジ色で縁どりされている点、地に黄色が使われている点は両商品とも同じであり、ただYの商品の場合には、側面の地の上方部分に緑色が使用されているに過ぎないのであるから箱全体のイメージそのものは同一に近いものとみることができる。そして、箱における他の部分における違いも、右の全体的イメージを変換させるものとはいえないうえ、そもそも、ステンレス製牛乳缶型容器入りバター飴を購入しようとする観光客等の需要者は、その包装箱によつてではなく、本件容器そのものでXの商品を選択しようとすると見るのが相当であるから、箱のデザインが多少異なつていたとしても、直ちに本件の商品においてその混同が生じなくなるものとは解せられない。したがつて、以上のように本件容器、ラベル、包装箱を含めて全体として、X、Yの商品表示を比較すると、この間に商品表示の類似が存し、その出所につき何らかの関係が存するのではないかと思わしめる混同の虞を生じたものというのが相当である。
 ところで、Yは、Xの本件商品の容器がステンレス製牛乳缶型であるところ、これを菓子の容器としたことについては、既に他の菓子製造業者において牛乳缶型容器入りバター飴を売出していたから、Xの本件商品の容器及び販売方法に何らの独創性、新規性もなく、一般に慣用され自由に使用されていた表示である旨主張する。しかしながら、同じ牛乳缶型容器とはいつても、一方はブリキ製の着色缶であり、他方はステンレス製の缶であるなど容器の形態、外見が全く異なつており、その間に混同を生ずるものということはできず、したがつて、本件商品はその容器において自他商品の識別力を十分そなえていたものということができるのであるし、又、菓子の容器として本件容器を使用することが慣用せられた表示であると認めるに足りる証拠は存しない。そして不正競争防止法第一条第一項第一号にいう周知商品表示は必ずしも新規性、独創性のあるものであることを要しないと解するのが相当である。

注記:判決文に下線はひかれておりません。 

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