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平成24(行ケ)10222 審決取消請求事件(商標法第4条第1項第7号関連)

>判例・裁判例>商標(登録要件)判例・裁判例>

事件の概要

 X(原告)は,「北斎」の漢字を筆文字風に縦書きにした文字部分と,その左側中央やや下に配置された,上方に黒地上に白色で山様の形を象り,その下方に黒白の横線様の模様を配した四角形の図形部分(以下「本件図形」という。)とから成る商標(以下「本願商標」という。)につき,第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として,商標登録出願(以下「本件出願」という。)をした。
 その後、Xは、,指定商品を第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具」を除く。),げた,草履類」(以下「本件指定商品」という。)と補正した。
 本件出願については,本願商標が商標法4条1項7号に該当することを理由として,拒絶をすべき旨の査定がされた。Xは,これを不服として,@本願商標は「北斎」の漢字を特定の書体で縦書きし,その左側部に朱印の印が押された構成よりなる結合商標であって,それ以上でもそれ以下でもない,A本願商標に係る標章は,これら縦書き文字と印の二者で構成されるものであって,単純に「北斎」の名前を独占しようとするような類いのものでは全くない,B本願商標の効力が土産物に及ぶのは,本願商標と完全に同じ商標,あるいは本願商標を構成する二つの部分(漢字文字,本件図形)の配置に変更を加えてなる商標などのように,本願商標と類似する商標を土産物に付した場合などの極めて特異なケースに限られるものである,CこれらのXの主張は,実質的に,本願商標の効力範囲が,漢字文字の「北斎」のみからなる商標には及ばないことを自覚し,これを宣言するものである、などと主張して、拒絶査定に対する審判を請求した。この審判請求につき,特許庁は、「本件審判の請求は,成り立たない。」とする審決(以下「本件審決」という。)をした。
 Xは、これを不服として提訴した。

判旨

1 商標法4条1項7号について

 商標法4条1項7号は,商標登録を受けることができない商標として,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」を規定しているところ,同項には,出願商標の構成自体がきょう激な文字や卑わいな図形等である場合だけでなく,その指定商品について使用することが社会公共の利益に反し,又は社会の一般的道徳観念に反するような場合も含まれるものである。

2 商標法4条1項7号該当性について

 本願商標は,その構成自体がきょう激な文字や卑わいな図形等である場合に該当するものとはいえないところ,本件審決は,本願商標は社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反するものであると判断しているので,以下においては,本願商標を本件指定商品について使用することが社会公共の利益に反し,又は社会の一般的道徳観念に反するものといえるかどうかについて検討する。
(1) まず,本願商標は,「北斎」との筆書風の漢字と,葛飾北斎が用いた落款と同様の形状をした本件図形からなるところ,前記審判段階におけるXの主張からすると,本願商標が商標登録された場合において,Xが本件指定商品について本願商標に基づき主張することができる禁止権の範囲は,「北斎」との筆書風の漢字と本件図形からなる構成に限定されると考えられることから,例えば,「北斎」との漢字文字のみからなる商標について,これが本願商標の禁止権の範囲に含まれるなどと主張することは,信義誠実の原則に反し許されないといわなければならない。
(2) また,葛飾北斎の出身地である東京都墨田区や国内各地のゆかりの地においては,当該地域のまちづくりや観光振興のシンボルとして,同人の名を用いた施設の整備や催し物の開催等が行われているところであって,「北斎」の名称は,それぞれの地域における公益的事業の遂行と密接な関係を有している。したがって,Xが本願商標の商標登録を取得し,本件指定商品について,本願商標を独占的に使用する結果となることは,上記のような各地域における公益的事業において,土産物等の販売について支障を生ずる懸念がないとはいえない。
 しかしながら,前記(1)のとおり,Xが本件指定商品について本願商標に基づき主張することができる禁止権の範囲は,「北斎」との筆書風の漢字と本件図形からなる構成に限定されると考えられることからすれば,当該公益的事業の遂行に生じ得る支障も限定的なものにとどまるというべきである。
(3) さらに,葛飾北斎は,日本国内外で周知,著名な歴史上の人物であるところ,周知,著名な歴史上の人物名からなる商標について,特定の者が登録出願したような場合に,その出願経緯等の事情いかんによっては,何らかの不正の目的があるなど社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあるため,当該商標の使用が社会公共の利益に反し,又は社会の一般的道徳観念に反する場合が存在しないわけではない。
 しかしながら,Xによる本願商標の出願について,上記のような公益的事業の遂行を阻害する目的など,何らかの不正の目的があるものと認めるに足りる証拠はないし,その他,本件全証拠によっても,出願経緯等に社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあるとも認められない。
(4) 以上のとおり,本願商標の商標登録によって公益的事業の遂行に生じ得る影響は限定的であり,また,本願商標の出願について,Xに不正の目的があるとはいえず,その他,出願経緯等に社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあるとも認められない本件においては,Xが葛飾北斎と何ら関係を有しない者であったとしても,Xが本件指定商品について本願商標を使用することが,社会公共の利益に反し,又は社会の一般的道徳観念に反するものとまでいうことはできない。
 したがって,本願商標は,商標法4条1項7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するものではない。
  
 注記:判決文では下線はひかれておりません。

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