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平成23(行ケ)10400 審決取消請求事件(商標法第4条第1項第7号関連)

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事件の概要

 X(被告)は,「Tarzan」の標準文字から成る商標(以下「本件商標」という。)につき,指定商品を第7類「プラスチック加工機械器具,プラスチック成形機用自動取出ロボット,チャック(機械部品)」とした商標登録(以下「本件商標登録」という。)を抹消するまで,商標権者であった者である。
 Y(原告)は、本件商標登録は、商標法第4条第1項第7号に違反するとして、無効審判を請求した。
 特許庁は,これを審理し,同請求を不成立とする旨の審決をした。
 Yは、これを不服とし、提訴した。

判旨

(1) 本件商標登録の査定時において,「ターザン(Tarzan)」の語は雄叫びを挙げながら蔦を使ってジャングルを飛び回る男性(青年)の姿を想起させるものとして一定程度認識されていたことを認めることができる。また,Yが1984年(昭和59年)以降,日本において,「Tarzan」に関し,合計12社に合計21件のライセンスを許諾したことからすれば,「Tarzan」の語が一定の顧客吸引力を有していたことも認めることができる。
 しかし,「ターザン(Tarzan)」が原作小説の映画化を通じて世界的な知名度を獲得したものであって,日本における「Tarzan」に関するライセンス契約において対象となった製品は,雑誌,カジュアルシューズ,下着等のアパレル関係,テレビ放送,子供向け書籍及びソフトカバーブックなどであり,米国における有力なライセンシーであるディズニー社は遊園地の経営や映画の製作・配給を業とする企業であること(弁論の全趣旨)などに照らすと,書籍,アパレル,遊園地,映画及びテレビ放送等の一般消費者と直接接する商品・役務との関係ではともかく,本件商標の指定商品である「プラスチック加工機械器具,プラスチック成形機用自動取出ロボット,チャック(機械部品)」という一般消費者を対象としない商品の分野において,「Tarzan」の語が経済的に一定程度評価しうる顧客吸引力を有しているとまでは認めがたい。加えて,本件商標登録の査定時,「ターザン」の原作小説の作者であるバローズが亡くなってから既に60年を超える期間が経過していた上,1970年代以降,日本における「ターザン」人気は次第に薄れていき,ディズニー社によるアニメ映画がヒットした1999年(平成11年)から10年以上が経過した本件商標の登録査定時の時点において,「Tarzan」が広く人々の目に触れる機会は減少し,「Tarzan」の語から想起されるイメージがかなり漠然としたものになっていたことは前記のとおりである。そうすると,Xが雄叫びを挙げながら蔦を使ってジャングルを飛び回る男性(青年)というターザンのイメージとXが製作する樹脂成形品取出しロボットの動きを重ね合わせて,このようなロボットの商品名として使用することを想定して本件商標登録をしたのだとしても,そのことをもって,「Tarzan」のイメージやその顧客吸引力に便乗しようとする不正の意図に基づく剽窃行為であるとまでいうことはできない。
(2) しかしながら,日本では広く知られていないものの,独特の造語になる「ターザン」は,具体的な人物像を持つ架空の人物の名称として,小説ないし映画,ドラマで米国を中心に世界的に一貫して描写されていて,「ターザン」の語からは,日本語においても他の言語においても他の観念を想起するものとは認められないことからすると,我が国で「ターザン」の語のみから成る本件商標登録を維持することは,たとえその指定商品の関係で「ターザン」の語に顧客吸引力がないとしても,国際信義に反するものというべきである。
 「ターザン(Tarzan)」の語は,米国の作家バローズの手になる小説シリーズ「ターザン・シリーズ」に登場する主人公の名前であり,本件商標登録査定時の時点において,日本におけるその著作権は存続していたし,派生的著作物にはなお著作権が存続し続けていたものである。バローズから「ターザン・シリーズ」のすべての書籍に関する権利を譲り受けたYは,オフィシャル・ウェブサイトを通じ,ターザンに関する諸々の作品及びバローズの業績を伝承・解説するとともに,「ターザン・シリーズ」を含めたバローズに関する小説,パルプ雑誌,映画,ラジオ放送作品,テレビ放送作品,コミックスなどのあらゆる作品を収蔵したオンラインアーカイブを作成・提供するなど,「ターザン」の原作小説及びその派生作品の価値の保存・維持に努めるとともに,米国のみならず世界各国において「ターザン」に関する商標を登録して所有したり,ライセンス契約の締結・管理に関わることによって,その商業的な価値の維持管理にも努めてきた。このように一定の価値を有する標章やキャラクターを生み出した原作小説の著作権が存続し,かつその文化的・経済的価値の維持・管理に努力を払ってきた団体が存在する状況の中で,上記著作権管理団体等と関わりのない第三者が最先の商標出願を行った結果,特定の指定商品又は指定役務との関係で当該商標を独占的に利用できるようになり,上記著作権管理団体による利用を排除できる結果となることは,商標登録の更新が容易に認められており,その権利を半永久的に継続することも可能であることなども考慮すると,公正な取引秩序の維持の観点からみても相当とはいい難い。
 Xは,「Tarzan」の語の文化的・商業的価値の維持に何ら関わってきたものではないから,指定商品という限定された商品との関係においてではあっても「Tarzan」の語の利用の独占を許すことは相当ではなく,本件商標登録は,公正な取引秩序を乱し,公序良俗を害する行為ということができる。
(3) 当裁判所は,以上の点を総合して勘案し,本件商標は商標法4条1項7号に該当すると判断するものである。

注記:下線は、判決文では引かれておりません。

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