事件の概要
X(原告)は、「Kawasaki」の欧文字をエーリアルブラックの書体に似た極太の書体で表した商標(以下「本願商標」という。)につき,第25類「被服,ベルト,帽子,手袋,ネクタイ,エプロン,リストバンド」を指定商品とする商標登録出願(以下「本願」という。)をしたが,拒絶査定を受けたので,拒絶査定不服審判を請求した。
これに対し,特許庁は,「本件審判の請求は,成り立たない。」旨の審決(以下「審決」という。)をした。
Xは、これを不服とし、提訴した。
判旨
審決は,「『Kawasaki』の文字は,姓氏の『川崎』を欧文字で表記したものと容易に理解されると判断するのが相当である。そして,・・・『川崎』の姓は,我が国においてありふれた氏と認められるものである。してみれば,本願商標を構成する『Kawasaki』の文字は,ありふれた氏である『川崎』を欧文字で表記したものというべき商標であるから,本願商標は,ありふれた氏を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標である。」として,本願商標は,商標法3条1項4号に該当する旨判断したが,審決の判断は,以下のとおり,疑問がある。
「川崎」がありふれた氏に該当すること,欧文字「Kawasaki」がその英文表記に該当することは,Xもこれを争っていない。
しかし,本願商標は,欧文字「Kawasaki」がエーリアルブラックに似た極太のゴシック書体で強調して書かれており,字間が狭く,全体的に極めてまとまりが良いことから,単なるゴシック体の表記とはいえず,見る者に,力強さ,重厚さ,堅実さなどの印象を与える特徴的な外観を有するものである。このような外観からすると,本願商標は,単なる欧文字の「Kawasaki」の表記とは趣きを異にするから,一般人に,一義的に姓氏を連想させる表記ということはできない。
また,審決は,「川崎」の氏を「KAWASAKI」,「Kawasaki」,「kawasaki」の欧文字で表記した例を引用するが,これらの中に,本願商標と同一又は類似の表示態様のものは認められない。
さらに,調査結果によれば,本願商標のみを呈示した場合,半数以上がバイク関係を想起したとするのに対し,本願商標から「個人名」を想起したとの明確な回答はなく,本願商標を「個人事業・商店のロゴ」と思った旨の回答は全体の1.5%にすぎなかった。また,調査結果によれば,本願商標をアパレル関係の商品に付して呈示した場合,本願商標から「個人名」を想起したものは全体の約1%であり,本願商標を「個人事業・商店のロゴ」と思った旨の回答は全体の2.2%にすぎなかった。すなわち,本願商標から,氏である「川崎」を想起した者は殆どいないということができ,このような調査結果からも,本願商標は,ありふれた氏を「普通に用いられる方法で表示する」ものではないと解すべきである。
したがって,本願商標が商標法3条1項4号に該当するとの被告の主張は採用することができない。
注記:下線は、判決文では引かれておりません。