事件の概要
X(原告)は,独特の太く四角い書体で,全体が略横長の長方形を構成するようにロゴ化して表した「KUmA」の欧文字の右上に,左方に向かって前かがみに二足歩行する熊のシルエット風図形を配し,上方にゴシック体で小さく表した「KUMA」の欧文字を添えて成る商標(以下「本願商標」という。)につき,指定商品を第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,下着,エプロン,靴下,スカーフ,手袋,ネクタイ,マフラー,帽子,ベルト」を指定商品とする登録商標について商標権を有する商標権者である。
Y(被告)は、本件商標登録について、商標法第4条第1項第15号等に該当することを理由として商標登録の無効審判を請求した。
これに対し、特許庁は,「本件商標登録を無効とする。」との審決をした。
Xは、これを不服とし、提訴した。
判旨
(1) 本件商標
本件商標は,独特の太く四角い書体で,全体が略横長の長方形を構成するようにロゴ化して表した「KUmA」の欧文字の右上に,左方に向かって前かがみに二足歩行する熊のシルエット風図形を配し,上方にゴシック体で小さく表した「KUMA」の欧文字を添えてなるものである。
(2) 引用商標
引用商標は,独特の太く四角い書体で,全体が略横長の長方形を構成するようにロゴ化して表した「PUmA」の欧文字の右上に,左方に向かって跳び上がるように前進するピューマのシルエット風図形を配し,「A」の欧文字の右下に,円内にアルファベットの大文字の「R」を記した記号を小さく添えてなるものである。
(3) 引用商標の周知著名性
認定された事実によれば,Yは,1949年から「PUMA」の文字及びピューマの図形をYのブランドとしてスポーツシューズに使用開始し,我が国においては,1972年から,代理店を通じて,あるいはライセンシーないし日本法人を通じて,スポーツウエア,靴,バッグ,アクセサリーを製造・販売してきたこと,引用商標を付したスポーツシューズ,バッグ,スポーツウエアあるいはTシャツなどの被服等については,少なくとも2005年頃からは,ランナーズ等多数の雑誌や新聞において継続して宣伝してきたことが認められる。
そして,引用商標は,略横長の長方形を構成するようにロゴ化して表した欧文字の右上に,左方に向かって跳び上がるようなピューマのシルエット風図形を配した構成態様として独創的であり,需要者に強い印象を与えるものである。
そうすると,引用商標は,本件商標の登録出願時には既に,Yの業務に係るスポーツシューズ,被服,バッグ等を表示する商標として,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されて周知・著名な商標となっており,本件商標の登録査定時及びそれ以降も,そのようなものとして継続していたと認めることができる。
(4) 本件商標と引用商標との類似性
本件商標と引用商標とを対比すると,両者は,4個の欧文字が横書きで大きく顕著に表されている点,その右肩上方に,熊とピューマとで動物の種類は異なるものの,四足動物が前肢を左方に突き出し該欧文字部分に向かっている様子を側面からシルエット風に描かれた図形を配した点において共通する。両者の4個の欧文字部分は,第1文字が「K」と「P」と相違するのみで,他の文字の配列構成を共通にする。しかも,各文字が縦線を太く,横線を細く,各文字の線を垂直に表すようにし,そして,角部分に丸みを持たせた部分を多く持つ縦長の書体で表されていることから,文字の特徴が酷似し,かつ,文字全体が略横長の長方形を構成するようにロゴ化して表した点で共通の印象を与える。文字の上面が動物の後大腿部の高さに一致する位置関係が共通しており,足や尾の方向にも対応関係を看取することができる。
本件商標の上方にゴシック体で小さく表した「KUMA」の欧文字や,引用商標の「A」の欧文字の右下に非常に小さく,円内にアルファベットの大文字の「R」を記した記号は,目立たない位置にあることや表示が小さいこと等により看者の印象に残らない。
以上,共通する構成から生じる共通の印象から,本件商標と引用商標とは,全体として離隔的に観察した場合には,看者に外観上酷似した印象を与えるものといえる。
(5) 取引の実情
本件商標の指定商品は,引用商標が長年使用されてきた「ジャケット,ジョギングパンツ,ズボン,Tシャツ,水泳着,帽子,ベルト,スポーツシューズ」等とは同一であるか又は用途・目的・品質・販売場所等を同じくし,関連性の程度が極めて高く,商標やブランドについて詳細な知識を持たず,商品の選択・購入に際して払う注意力が高いとはいえない一般消費者を需要者とする点でも共通する。
衣類や靴等では,商標をワンポイントマークとして小さく表示する場合も少なくなく,その場合,商標の微細な点まで表されず,需要者が商標の全体的な印象に圧倒され,些細な相違点に気付かないことも多い。
Xは,X製品は観光土産品として,観光土産品の販売場所で販売されていると主張するけれども,観光土産品は,土産物店のみならずデパート・商店街等でも販売され,同一施設内で観光土産品用でない被服も販売されていることが認められるから,販売場所も共通にするといえる。
(6) 混同を生ずるおそれ
上記事情を総合すると,本件商標をその指定商品について使用する場合には,これに接する取引者,需要者は,顕著に表された独特な欧文字4字と熊のシルエット風図形との組合せ部分に着目し,周知著名となっている引用商標を連想,想起して,当該商品がY又はYと経済的,組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,その出所について混同を生ずるおそれがあるといえる。
(7) 小括
したがって,本件商標は15号に該当するとした審決の判断に誤りはなく,取消事由2に理由はない。
注記:下線は、判決文では引かれておりません。