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平成22(行ケ)10253等 審決取消請求事件(商標法第3条第1項第3号関連)

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事件の概要

 X(原告)は、商標目録のとおりの構成よりなる商標(以下「本願商標」という。)につき,第20類「家具」を指定商品として、立体商標の商標登録出願(以下「本願」という。)をしたが,拒絶査定を受けたので,拒絶査定不服審判を請求した。Xは,指定商品について,「椅子」とする補正をし,その後、「肘掛椅子」とする補正をした。
 これに対し,特許庁は,「本件審判の請求は,成り立たない。」旨の審決(以下「審決」という。)をした。
 Xは、これを不服とし、提訴した。

判旨

(1) 立体商標における商品等の形状
ア 商標法は,商標登録を受けようとする商標が,立体的形状(文字,図形,記号若しくは色彩又はこれらの結合との結合を含む。)からなる場合についても,所定の要件を満たす限り,登録を受けることができる旨規定する(商標法2条1項,5条2項参照)。
 ところで,商標法は,3条1項3号で「その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,数量,形状(包装の形状を含む。),価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途,数量,態様,価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は,商標登録を受けることができない旨を,同条2項で「前項3号から5号までに該当する商標であっても,使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては,同項の規定にかかわらず,商標登録を受けることができる」旨を,4条1項18号で「商品又は商品の包装の形状であって,その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」は,同法3条の規定にかかわらず商標登録を受けることができない旨を,26条1項5号で「商品又は商品の包装の形状であって,その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」に対しては,商標権の効力は及ばない旨を,それぞれ規定している。
 このように,商標法は,商品等の立体的形状の登録の適格性について,平面的に表示される標章における一般的な原則を変更するものではないが,同法4条1項18号において,商品及び商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標については,登録を受けられないものとし,その機能を確保するために不可欠な立体的形状については,特定の者に独占させることを許さないとしているものと理解される。
 そうだとすると,商品等の機能を確保するために不可欠とまでは評価されない形状については,商品等の機能を効果的に発揮させ,商品等の美観を追求する目的により選択される形状であっても,商品,役務の出所を表示し,自他商品,役務を識別する標識として用いられるものであれば,立体商標として登録される可能性が一律的に否定されると解すべきではなく(もっとも,以下のイで述べるように,識別機能が肯定されるためには厳格な基準を満たす必要があることはいうまでもない。),また,出願に係る立体商標を使用した結果,その形状が自他商品識別力を獲得することになれば,商標登録の対象とされ得ることに格別の支障はないというべきである。
イ 以上を前提として,まず,立体商標における商品等の立体的形状が商標法3条1項3号に該当するか否かについて考察する。
(ア) 商品等の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美観をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって,商品,役務の出所を表示し,自他商品,役務を識別する標識として用いられるものは少ないといえる。このように,商品等の製造者,供給者の観点からすれば,商品等の形状は,多くの場合,それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの,すなわち,商標としての機能を有するものとして採用するものではないといえる。また,商品等の形状を見る需要者の観点からしても,商品等の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能や美観を際立たせるために選択されたものと認識し,出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえる。
 そうすると,商品等の形状は,多くの場合に,商品等の機能又は美観に資することを目的として採用されるものであり,客観的に見て,そのような目的のために採用されたと認められる形状は,特段の事情のない限り,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当すると解するのが相当である。
(イ) また,商品等の具体的形状は,商品等の機能又は美観に資することを目的として採用されるが,一方で,当該商品の用途,性質等に基づく制約の下で,通常は,ある程度の選択の幅があるといえる。しかし,同種の商品等について,機能又は美観上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであれば,当該形状が特徴を有していたとしても,商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状として,商標法3条1項3号に該当するものというべきである。その理由は,商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは,公益上の観点から必ずしも適切でないことにある。
(ウ) さらに,商品等に,需要者において予測し得ないような斬新な形状が用いられた場合であっても,当該形状が専ら商品等の機能向上の観点から選択されたものであるときには,商標法4条1項18号の趣旨を勘案すれば,商標法3条1項3号に該当するというべきである。その理由として,商品等が同種の商品等に見られない独特の形状を有する場合に,商品等の機能の観点からは発明ないし考案として,商品等の美観の観点からは意匠として,それぞれ特許法・実用新案法ないし意匠法の定める要件を備えれば,その限りにおいて独占権が付与されることがあり得るが,これらの法の保護の対象になり得る形状について,商標権によって保護を与えることは,商標権は存続期間の更新を繰り返すことにより半永久的に保有することができる点を踏まえると,特許法,意匠法等による権利の存続期間を超えて半永久的に特定の者に独占権を認める結果を生じさせることになり,自由競争の不当な制限に当たり公益に反することが挙げられる。
(2) 本願商標の商標法3条1項3号該当性
ア 本願商標の構成
 本願商標は,別紙「商標目録」のとおりの構成よりなるものであり,本願商標の形状は,以下の特徴を有している。
(ア) 全体の構成
 4本の脚と座面と背板(背もたれ部)と肘(肘掛け部)と4本の貫(ぬき,脚を結ぶ水平部材)からなる肘掛椅子の立体的形状
(イ) 背板(背もたれ)上部の笠木及び肘(肘掛け部)
 背もたれ上部に配された笠木は,左右に半円状に延伸して肘(肘掛け部)を兼ねており,1本の円柱状の曲げ木によって構成されている。上記「笠木兼肘掛け部」は,「背板」と「後脚から上方に延伸した支柱」により支えられている。
(ウ) 背板(背もたれ部)
 背板(背もたれ部)は,一枚の板からなり,前後から見ると欧文字「Y」又は「V」字形の特徴のある形状を呈している。
(エ) 後脚
 後脚から上方に伸びた支柱は,1本の長い木材からなり,前後からみても,左右からみても,欧文字「S」字形ないし逆「S」字形を上下に長く伸ばしたような特徴のある形状を呈している。
(オ) 貫(脚を結ぶ水平部材)
 貫は,後脚同士を結ぶもの,後脚と前脚とを結ぶもの,前脚同士を結ぶものと高さを変えて,水平に配置されている。
(カ) 座面等
 座面は,矩形の枠木の間に,細い紐類を編み込んで構成されている。なお,座面以外は,木材から構成されている。
イ 判断
 本願商標の上記形状について考察すると,@背もたれ上部の笠木と肘掛け部が一体となった,ほぼ半円形に形成された一本の曲げ木が用いられていること,A座面が細い紐類で編み込まれていること,B上記笠木兼肘掛け部を,後部で支える「背板」(背もたれ部)は,「Y」字様又は「V」字様の形状からなること,C後脚は,座部より更に上方に延伸して,「S」字を長く伸ばしたような形状からなること等,特徴のある形状を有している。同特徴によって,本願商標は,看者に対し,シンプルで素朴な印象,及び斬新で洗練されたとの印象を与えているといえる。
 他方,本願商標の形状における特徴は,いずれも,すわり心地等の肘掛椅子としての機能を高め,美感を惹起させることを目的としたものであり,本願商標の上記形状は,これを見た需要者に対して,肘掛椅子としての機能性及び美観を兼ね備えた,優れた製品であるとの印象を与えるであろうが,それを超えて,上記形状の特徴をもって,当然に,商品の出所を識別する標識と認識させるものとまではいえない。
ウ 小括
 以上によれば,本願商標は,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当するものというべきである。

注記:下線は、判決文では引かれておりません。

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