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平成22(行ケ)10406 審決取消請求事件(商標法第3条第1項第3号関連)

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事件の概要

 X(原告)は、上部に蓋兼噴霧器を有し,その下に男性の胴体部分をモチーフにデザイン化したボトルからなる商標(以下「本願商標」という。)につき,第3類「洗濯用漂白剤その他の洗濯用剤,清浄剤,つや出し剤,擦り磨き剤及び研磨剤,美容製品,せっけん,香料類及び香水類,精油,化粧品,ヘアーローション,歯磨き」を指定商品として、立体商標の商標登録出願(以下「本願」という。)をしたが,拒絶査定を受けたので,拒絶査定不服審判を請求した。
 これに対し,特許庁は,「本件審判の請求は,成り立たない。」旨の審決(以下「審決」という。)をした。
 Xは、これを不服とし、提訴した。

判旨

(1)商標法3条と立体商標における商品等の形状
ア 商標法3条1項3号は,「その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,数量,形状(包装の形状を含む。),価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途,数量,態様,価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は,商標登録を受けることができない旨を規定し,同条2項は,「前項3号から5号までに該当する商標であっても,使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては,同項の規定にかかわらず,商標登録を受けることができる」旨を規定している。その趣旨は,同条1項3号に該当する商標は,特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものとして,商標登録の要件を欠くが,使用をされた結果,自他商品識別力を有するに至った場合に商標登録を認めることとしたものである。
 商標法は,商標登録を受けようとする商標が,立体的形状(文字,図形,記号若しくは色彩又はこれらの結合との結合を含む。)からなる場合についても,所定の要件を満たす限り,登録を受けることができる旨規定するが(同法2条1項,5条2項),同法4条1項18号において,「商品又は商品の包装の形状であって,その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」は,同法3条の規定にかかわらず商標登録を受けることができない旨を規定していることに照らすと,商品及び商品の包装の立体的形状のうち,その機能を確保するために不可欠な立体的形状については,特定の者に独占させることを許さないものとしたものと解される。
イ 商品及び商品の包装の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美感をより優れたものとする等の目的で選択されるものであって,直ちに商品の出所を表示し,自他商品を識別する標識として用いられるものではない。このように,商品等の製造者,供給者の観点からすれば,商品等の形状は,多くの場合,それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの,すなわち,商標としての機能を果たすものとして採用するものとはいえない。また,商品等の形状を見る需要者の観点からしても,商品等の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能や美感を際立たせるために選択されたものと認識するのであって,商品等の出所を表示し,自他商品を識別するために選択されたものと認識する場合は多くない。
 そうすると,客観的に見て,商品等の機能又は美感に資することを目的として採用されると認められる商品等の形状は,特段の事情のない限り,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当することになる。
 また,商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定人に独占使用を認めることは,公益上適当でない。
 よって,当該商品の用途,性質等に基づく制約の下で,同種の商品等について,機能又は美感に資することを目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものであれば,当該形状が特徴を有していたとしても,同号に該当するものというべきである。
ウ なお,商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠とまでは評価されない立体的形状については,それが商品等の機能を効果的に発揮させ,商品等の美感を追求する目的により選択される形状であったとしても,商品等の出所を表示し,自他商品を識別する標識として用いられ,又は使用をされた結果,その形状が自他商品識別力を獲得した場合には,商標登録を受けることができるものとされている(商標法3条2項)。
(2) 本願商標の商標法3条1項3号該当性
ア 本願商標の構成
 本願商標は,商標に関する記述(Description of the mark)として,「3/4 view of bottle, resembling a male body in translucent blue, the torso having white stripes; silver upper part.」(ボトルの3/4の外観は青い半透明の男性の身体に似ている。胴の部分は白のストライプがある。先端部は銀になっている。)との記載があり,色彩に関する記述として,「Silver,white and blue」(銀,白及び青)との記載がある。
 これによれば,本願商標は,指定商品である香水等の容器(包装容器)の立体的形状に係るものであり,その形状は,その構成上部に蓋兼噴霧器を有し,その下に男性の胴体部分をモチーフにデザイン化したボトルからなる。蓋兼噴霧器は,銀色の円筒状であり,ボトル部分はなだらかな曲面の途中にくびれがあり,くびれの上部は青と白のストライプ模様であり,くびれの下側は青色である。あたかも四肢のない男性の胴体の形状に,ストライプ模様のセーラーTシャツに青色の短パンを着用したかのような印象を与える。
イ 本願商標の創作
 本願商標の形状は,デザイナーであるジャン・ポール・ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)が香水の容器として,男性の身体のラインをイメージしてデザインしたものである。
ウ 香水の容器の形状
 本願の指定商品の1つである香水等の容器には,洗練されたデザインからなる多種多様な形状があるところ,上部に蓋兼噴霧器を有するものが多い。また,その下の容器部分の形状が,くびれを有するなだらかな曲面からなる立体形状からなるものもあり,人間の身体をモチーフとした容器として,Xの販売に係るJEANPAUL GAULTIER CLASSICのほか,ロッキーマン EDP・SP,ジュット デ スキャパレリ EDP・SP,ダリフローレ EDT・SP,エビータ EDP・SP,サイレン EDP・SP,ドーリーガール ボンジュール ラムール EDT・SP等が存在する。
 また,青色を基調とした香水の容器も,複数存在する。
 もっとも,人間の身体をモチーフとした香水の容器の中でも,本願商標のような,男性の胴体がストライプ模様のセーラーTシャツと青色の短パンを着用したような容器の形状を有するものは,他に見当たらない。
エ 前記アないしウによれば,本願商標の立体的形状のうち,上部の蓋部兼噴霧器部分は,液体である香水を収納し,これを取り出すという容器の基本的な形状であって,スプレーという機能をより効果的に発揮させるものであり,その下の容器部分の形状は,容器の輪郭の美感をより優れたものにするためのものであることが認められる。なお,本願商標に係る立体的形状は,一定の特徴を有するものではあるが,人間の身体をモチーフした香水の容器や青色を基調とした香水の容器は,他にもあり,香水の容器において通常採用されている形状の範囲を大きく超えるものとまでは認められない。
 そうすると,本願商標の立体的形状は,本件審決時を基準として客観的に見れば,香水の容器について,機能又は美感に資することを目的として採用されたものと認められ,また,香水の容器の形状として,需要者において,機能又は美感に資することを目的とする形状と予測し得る範囲のものであるから,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当するというべきである。

注記:下線は、判決文では引かれておりません。

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