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平成24(行ケ)10404 審決取消請求事件(商標法第4条第1項第15号関連)

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事件の概要

 X(被告)は,全体が黒地の長方形内に金色の欧文字で「BOLONIAJAPAN」を横書きして成る商標(以下「本願商標」という。)につき,指定商品を商標法施行令別表の第30類「菓子及びパン」及び第35類「菓子及びパンの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を指定商品及び指定役務(以下「本件指定商品等」という。)とする登録商標について商標権を有する商標権者である。
 Y(原告)は、本件商標の登録を無効にすることを求めて審判を請求した。
 特許庁は,上記審判事件につき,本審判の請求は、成り立たない旨の審決をした。
 Yは、これを不服とし、提訴した。

判旨

(1) 商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品又は指定役務に使用したときに,当該商品又は役務が他人の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該商品又は役務が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標が含まれる。そして,上記の「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきものである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁)。
(2) 混同を生ずるおそれの有無
ア:商標の類似性の程度
(ア) 本件商標は,全体が黒地の長方形内に金色の欧文字で「BOLONIAJAPAN」と記載され,「BOLONIA」と「JAPAN」からなる結合商標である。本件商標においては,「BOLONIA」の部分の文字の間隔が「JAPAN」の部分の文字の間隔よりやや広い。
 本件商標の構成中「JAPAN」の部分は,我が国の国名「日本」を表す語であって,日本と何らかの関係性がある会社や商品であることを示すために,商号や商標の一部に含めることが広く一般的に行われており,自他商品の出所識別力は乏しく,出所識別標識として支配的な印象を与えるものではない。
 他方,本件商標の構成中「BOLONIA」の部分は,イタリアの地方・都市名であり,ボロニア地方が起源とされている「ボロニアソーセージ」(ボロニヤソーセージ)が知られている。
 本件商標を構成する「BOLONIA」及び「JAPAN」は,上記のとおりいずれもよく知られた概念であり,簡易迅速性を重んずる取引の実際においては,その一部分のみによって簡略に表記ないし称呼されることもあり得るものである。
(イ) 後記イのとおり,「BOLONIYA」又は「ボロニヤ」の表示は,Y又はY商品を示すものとして一定の周知性を有している。なお,Yの「BOLONIYA」又は「ボロニヤ」は,「ボロニヤソーセージ」の「ボロニヤ」に由来するものであり,イタリアの地方・都市名である。
(ウ) そうすると,本件商標「「BOLONIAJAPAN」を,指定商品のうち「パン」に使用した場合は,「ボロニアジャパン」のみならず,「ボロニア」という称呼・観念も生じることもあり得る。そして,その場合には,Y又はY商品を示すものとして周知な「BOLONIYA」又は「ボロニヤ」と類似性を有するものということができる。
イ 「BOLONIYA」及び「ボロニヤ」の周知著名性及び独創性の程度
(ア) 前記認定のとおり,「BOLONIYA」又は「ボロニヤ」の表示は,Yが元々はソーセージの名称「ボロニヤソーセージ」に用いられていた「ボロニヤ」をパン屋の屋号として採択したものである。そして,「ボロニヤソーセージ」の「ボロニヤ」は,イタリアの地方・都市名であって,これをソーセージではなくパンに用いる場合には,独創性がないとはいえない。
(イ) 前記認定の事実を総合すれば,平成10年頃までには,Y及びそのフランチャイジーが製造販売するデニッシュ食パンは,「元祖デニッシュ食パン」などとして,全国的に周知となったことが認められる。そして,Y商品には,「BOLONIYA」又は「ボロニヤ」の表示が使用されていたものであり,「BOLONIYA」又は「ボロニヤ」の表示は,当時,Y又はY商品を示すものとして周知性を有していたものと認められる。
 前記認定のとおり,その後,Yは,平成20年9月以降,毎年1億円以上の売上げを上げ,平成22年頃からは再び「伝説のパン」「京都祇園ボロニヤの元祖デニッシュ」などとして雑誌等にも採り上げられ,インターネット販売等でも売上げランキング1位を獲得するなど,「BOLONIYA」又は「ボロニヤ」の表示は,近時も,Y又はY商品を示すものとして周知性を有しているものと認められる。
 そして,「BOLONIYA」又は「ボロニヤ」の表示が,一旦,Y又はY商品を示すものとして周知性を獲得し,近時も周知性を有していることに照らすと,特段の事情がない限り,その間の期間においても,周知性が継続していたものと推認されるところ,店舗数が減少し売上げが低下した時期もあったものの,インターネットによる通信販売等もあってYの売上げ自体が大幅に減少したものでもないから,本件商標の登録出願の時点及び登録査定の時点においても,一定の周知性があったものと認められる。
ウ 商品の関連性
 本件指定商品等には,「パン」が含まれ,Yを示す表示として周知性のある「BOLONIYA」又は「ボロニヤ」の「デニッシュ食パン」を包含するものである。
 よって,Y商品と本件商標の指定商品は,取引者及び需要者が共通する。
エ 本件商標の使用態様と取引の実情
 Xは,「BOLONIA.JP」というドメインネームを取得して,「BOLONIAJAPAN」(ボロニアジャパン)というウェブサイトにおいて「京都祇園生まれのデニッシュ食パン」と記載した上で,デニッシュパン等を販売し,楽天市場でも,「BOLONIAJAPAN」について「京都祇園生まれのデニッシュ食パン」「京都祇園ボロニア ジャパン」「BOLONIAデニッシュ」などと記載した上で,デニッシュパン等を販売しており,Xのレシートにおいては,「BOLONIA」と大きく記載され,その下に小さく「JAPAN」と記載されている。
 なお,本件商標の指定商品が日常的に消費される性質の商品であることや,その需要者が特別な専門的知識経験を有しない一般大衆であることからすると,これを購入するに際して払われる注意力はさほど高いものでない。
 上記のようなXの本件商標の使用態様及び需要者の注意力の程度に照らすと,Xが本件商標を指定商品に使用した場合,これに接した需要者は,かつて周知性を有していた「京都祇園ボロニヤの元祖デニッシュ」や現在も一定の周知性を有する「BOLONIYA」又は「ボロニヤ」の表示を連想する可能性がある。
オ まとめ
 前記のとおり,@本件商標を,指定商品のうち「パン」に使用した場合は,Y又はY商品を示すものとして周知な「BOLONIYA」又は「ボロニヤ」と類似性を有すること(前記ア),A「BOLONIYA」又は「ボロニヤ」の表示は,独創性が高いとはいえないものの,「デニッシュ食パン」の分野では,Y又はY商品を示すものとして一定の周知性を有していること(前記イ),B本件商標の指定商品は,「デニッシュ食パン」を包含するから,Y商品と取引者及び需要者が共通すること(前記ウ),CXの本件商標の使用態様及び需要者の注意力等に照らし,Xが本件商標を指定商品に使用した場合,これに接した需要者が,「BOLONIYA」又は「ボロニヤ」の表示を連想する可能性があること(前記エ)を総合的に判断すれば,本件商標を,指定商品のうち「パン」に使用した場合は,これに接した取引者及び需要者に対し,Y使用に係る「BOLONIYA」又は「ボロニヤ」の表示を連想させて,当該商品がYとの間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信され,商品の出所につき誤認を生じさせるとともに,Yの表示の持つ顧客吸引力へのただ乗り(いわゆるフリーライド)やその希釈化(いわゆるダイリューション)を招くという結果を生じかねない。
 そうすると,本件商標は,商標法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれがある商標」に当たると解するのが相当である。

注記:下線は、判決文では引かれておりません。

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