事件の概要
X(原告・上告人)ら並びにA及びBは「水沢うどん」の 文字を縦書きした商標につき,指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のもの)別表第32類「うどんめん,即席うどんめん」とする登録商標(平成5年8月31日設定登録,登録第2564665号。以下「本件登録商標」という。)に係る商標権を共有していた。
Yらは,Xら並びにA及びBを被請求人として,本件登録商標に係る商標登録を無効にすることについて,審判請求をした。
特許庁は,上記審判事件につき,商標法3条1項3号該当を理由として,本件登録商標に係る商標登録を無効にすべき旨の審決をした。Xらは,上記審決に対する訴えを提起したが,A及びBは,本件登録商標に係る商標権を放棄する旨の持分放棄書を作成し,出訴期間内に上記審決に対する訴えを提起しなかった。
Xら並びにA及びBは,上記持分放棄を原因として,A及びBの持分をXらへ移転する旨の持分移転登録を申請した。
本件訴えは,Xらのみが上記審決の取消しを請求するものであるところ,原審は,共有に係る商標権につき,商標登録を無効にすべき旨の審決(以下「無効審決」という。)の取消しを求める訴えは,共有者全員の有する1個の権利の存否を決めるものとして,合一に確定する必要があり,固有必要的共同訴訟である。AびBが訴えを提起することなく出訴期間を経過したから,Xらのみの提起に係る本件訴えは,不適法であると判断して、本件訴えを却下した。
Xらは、これを不服とし、上告した。
判旨
商標登録出願により生じた権利が共有に係る場合において,同権利について審判を請求するときは,共有者の全員が共同してしなければならないとされているが(商標法56条1項の準用する特許法132条3項),これは,共有者が有することとなる1個の商標権を取得するには共有者全員の意思の合致を要求したものであるからにほかならない。これに対し,いったん商標権の設定登録がされた後は,商標権の共有者は,持分の譲渡や専用使用権の設定等の処分については他の共有者の同意を必要とするものの,他の共有者の同意を得ないで登録商標を使用することができる(商標法35条の準用する特許法73条)。
ところで,いったん登録された商標権について商標登録の無効審決がされた場合に,これに対する取消訴訟を提起することなく出訴期間を経過したときは,商標権が初めから存在しなかったこととなり,登録商標を排他的に使用する権利が遡及的に消滅する(商標法46条の2)。したがって,上記取消訴訟の提起は,商標権の消滅を防ぐ保存行為に当たるから,商標権の共有者が各自単独でもすることができるものと解される。そして,このように解したとしても,訴え提起をしなかった共有者の権利を害することもない。
共有に係る商標権については,これに対する共有者それぞれの利益や関心の状況が異なり得ることから訴え提起について他の共有者の協力が得られない場合や,無効審決後に持分を放棄したにもかかわらず出訴期間内に登録が完了しない場合,さらに,商標権の消滅後においても無効審決がされることがあり(同法46条2項参照),商標権の設定登録から長期間経過して他の共有者が所在不明になる場合などが想定される。このような場合に共有に係る商標登録の無効審決に対する取消訴訟が固有必要的共同訴訟であると解して,共有者の一部の者のみが提起した訴えは不適法であるとすると,出訴期間の満了と同時に無効審決が確定し,商標権が初めから存在しなかったこととなり,不当な結果となり兼ねない。
商標権の共有者が各自単独で無効審決の取消訴訟を提起することができると解しても,その訴訟で請求認容の判決が確定した場合には,その取消しの効力は他の共有者にも及び(行政事件訴訟法32条1項),再度,特許庁で共有者全員との関係で審判手続が行われることになる(商標法63条2項の準用する特許法181条2項)。他方,その訴訟で請求棄却の判決が確定した場合には,他の共有者の出訴期間の満了により,無効審決が確定し,権利は初めから存在しなかったものとみなされることになる(商標法46条の2)。いずれの場合にも,合一確定の要請に反する事態は生じない。さらに,各共有者が共同して又は各別に取消訴訟を提起した場合には,これらの訴訟は,類似必要的共同訴訟に当たると解すべきであるから,併合の上審理判断されることになり,合一確定の要請は充たされる。
以上説示したところによれば,商標権の共有者は,共有に係る商標登録の無効審決がされたときは,各自,単独で無効審決の取消訴訟を提起することができると解するのが相当である。
そうすると,本件訴えを不適法とした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
注記:下線は、判決文では引かれておりません。実務上、重要と思われる部分に引いております。