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平成25(ネ)10032 損害賠償等請求事件

>判例・裁判例>商標(商標及び商品・役務の類否)判例・裁判例>

事件の概要

 X(原告)らは、太線で表された四角形内に「とん」と「かつ」の文字を二段に併記し,その下に太線ゴシック体で「和幸」の文字を縦書きして成る商標につき,指定商品を第42類「とんかつ料理を主とする飲食物の提供」とする登録商標(平成8年12月25日設定登録,登録第3237537号。以下「X商標」という。)に係る商標権(以下「X商標権」という。)を有している。
 Yは,平成20年9月11日から平成22年7月14日までの間,レストラン及び売店を営業し(以下「本件店舗」という。),本件店舗において飲食物の提供を行うに当たり,@その店舗看板,店舗外装,店舗備付けのブラックボード及び本件店舗の存する商業施設(ユアエルム)の外看板において,それぞれ「和幸食堂」の文字と,当該文字の半分以下の大きさの「銀めし」「WAKO−SHOKUDO」の文字をいずれも毛筆体で横書きして成る標章(以下「Y標章2」という。)及び「和幸食堂」の文字を縦書きして成るものであることのほかは,基本的にY標章2と同様であるが,「銀めし」の下方に「WAKO−SHOKUDO」,「WAKO−SHOKUDO」の下方に「米・菜・味・暖」の表示(本件図形)がそれぞれ近接して配置され,これらの表示が「幸」の文字の左方に付されている成る標章(以下「Y標章3」という。)を使用し,Aインターネット上の被告ウェブサイトにおいて,「和幸食堂」の標章(以下「Y標章1」といい,Y標章1ないし3を併せて「Y各標章」という。)及びY標章2を使用し,B本件店舗内で使用するメニュー表において,Y標章2を使用した(以下,上記@ないしBの使用を「本件使用」という。)。
 Xらは,Yが平成20年9月11日から平成22年7月14日までの間,本件店舗において使用したY各標章はX商標と類似しているから,Y各標章の使用はXらが有するX商標権の侵害(商標法37条1項)に当たると主張して,Yに対し,民法709条(商標権侵害)に基づく損害賠償等を請求した。
 原審は,Xらの請求を一部認容する判決をした。
 これに対し,Xら及びY双方が,それぞれの敗訴部分を不服として控訴を提起した。

判旨

(1)商標と標章の類否は,対比される標章が同一又は類似の商品・役務に使用された場合に,商品・役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品・役務に使用された標章がその外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品・役務の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。そして,商標と標章の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を使用した商品・役務につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず,したがって,これら3点のうち類似する点があるとしても,他の点において著しく相違することその他取引の実情等によって,何ら商品・役務の出所の誤認混同をきたすおそれの認め難いものについては,これを類似の標章と解することはできないというべきである(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁,最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)。
 また,X商標とY各標章は,いずれも複数の構成部分から成るいわゆる結合商標であると認められるところ,複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについては,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,原則として許されない。他方で,商標の構成部分の一部が,取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合等においては,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも許されるというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。
 以上の説示を前提として,以下,原告商標と被告各標章との類否を検討する。
(2) X商標とY各標章との類否
ア :X商標から生じる称呼及び観念について
 X商標は,太線で表された四角形内に「とん」と「かつ」の文字を二段に併記し,その下に太線ゴシック体で「和幸」の文字を縦書きして成るものであり,「とんかつ」の部分は,視覚上の特徴がみられるものの,「とんかつ」の部分と「和幸」の文字部分とをその構成部分とするものであることは,視覚上,容易に認識することができるものであるところ,「とんかつ」の部分は,同商標の指定役務の対象そのものを表す語から成るものであるから,X商標の「とんかつ」の部分からは,それ自体で独立した出所識別標識としての称呼及び観念は生じないものというべきである。他方,「和幸」の部分は,それ自体造語であって一般的な熟語ではないから,出所識別標識として強く支配的な印象を与える部分であると認められる。
 そうすると,X商標からは,「とんかつ和幸」という当該商標の全体に対応した称呼及び観念とは別に,「和幸」の部分に対応した「ワコウ」との称呼も生じるものと認められる。
イ: Y各標章から生じる称呼及び観念について
(ア) Y標章1
 Y標章1は,「和幸食堂」の文字を横書きして成るものであり,各文字の大きさ及び書体は同一であって,その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されているものである。そうすると,Y標章1からは,「和幸食堂」というまとまった外観とともに,「ワコウショクドウ」という1連の称呼が生じ,また,「和幸」という名前の「食堂」といった観念が生じることは否定し得ない。
 しかし,同時に,Y標章1は,「和幸」の文字部分と「食堂」の文字部分とをその構成部分とするものであることは,視覚上,容易に認識することができるものである。そして,Y標章1の「食堂」の文字部分は,「食事をする部屋」あるいは「いろいろな料理を食べさせる店」を意味する語であるばかりでなく,役務を提供する場所そのものを指す語であるから,Y標章1における「食堂」の部分からは,「和幸」の部分と一体となって上記の称呼ないし観念が生じ得るとしても,それ自体で出所識別標識として独立した称呼及び観念は生じないというべきである。
 そうすると,Y標章1からは,「和幸食堂」という当該標章の全体に対応した称呼及び観念とは別に,「和幸」の部分に対応した「ワコウ」の称呼も生じるといわざるを得ないのであって,X商標とY標章1との類否判断に際して,Y標章1から「和幸」の部分を抽出することは当然に許されるというべきである。
 この点に関しYは,「和幸」の文字部分の識別力及び「食堂」の文字部分の識別力についてその主張するところから,Y各標章は,「和幸」の部分と「食堂」の部分とを全体として,これを考察すべきである旨主張する。
 しかし,上記のとおり,「食堂」の部分については本来出所識別力はなく,他方,「和幸」の部分については,「和幸」が造語であって,その部分が取引者,需要者に対しY標章1の役務の出所識別標章として強く支配的な印象を与えるものと認められることから,Y標章1においては,「和幸」という構成部分を抽出してX商標と比較することは当然に許されるというべきであり,Y標章1の称呼ないし観念が「和幸食堂」以外に生じる余地がないということはできない。
(イ)Y標章2
 Y標章2は,「和幸食堂」の文字と,当該文字の半分以下の大きさの「銀めし」「WAKO−SHOKUDO」の文字をいずれも毛筆体で横書きして成るものであり,「銀めし」が「幸」の文字の上方に近接して,「WAKO−SHOKUDO」が「幸」「食」の文字の下方に近接して付されている。また,これらの文字のほか,赤い四角形の印影を模したマークで「米・菜・味・暖」の文字が中抜きで記された図形(以下「本件図形」という。)が,「和幸食堂」の文字の半分以下の大きさで「堂」の文字の右下方に付されている。
 Y標章2は「和幸食堂」の文字部分とそれ以外の構成部分とから成るものであるが,このうち「和幸食堂」の文字部分が大きく強調されており,同部分が標章の中心的構成部分に当たることは明らかであるから,Y標章1について説示したところがそのまま当てはまる。
 よって,Y標章2からは,「和幸食堂」ないし「銀めし和幸食堂」という当該標章の全体に対応した称呼及び観念とは別に,「和幸」の部分に対応した「ワコウ」の称呼も生じるというべきであって,X商標とY標章2との類否判断に際して,Y標章2から「和幸」の部分を抽出することは当然に許されるべきものである。
(ウ) Y標章3について
 Y標章3は,「和幸食堂」の文字を縦書きして成るものであることのほかは,基本的にY標章2と同様であるが,「銀めし」の下方に「WAKO−SHOKUDO」,「WAKO−SHOKUDO」の下方に「米・菜・味・暖」の表示(本件図形)がそれぞれ近接して配置され,これらの表示が「幸」の文字の左方に付されている。
 このようにY標章3は「和幸食堂」の文字部分とそれ以外の構成部分とから成るものであるが,このうち「和幸食堂」の文字部分が大きく強調されており,同部分が標章の中心的構成部分に当たることは明らかであるから,Y標章1について説示したところがそのまま当てはまる。
 よって,Y標章3からは,「和幸食堂」ないし「銀めし和幸食堂」という当該標章の全体に対応した称呼及び観念とは別に,「和幸」の部分に対応した「ワコウ」の称呼も生じるというべきであって,X商標とY標章3との類否判断に際して,Y標章3から「和幸」の部分を抽出することは当然に許されるべきものである。
ウ: 上記ア及びイによると,X商標とY各標章とは,出所識別標識として強く支配的な印象を与える「和幸」との文字部分及び「ワコウ」という称呼において共通するものであり,両商標(標章)の全体的な外観の相違は,出所識別標識としての称呼及び観念が生じない「食堂」及び「とんかつ」部分が異なる程度にとどまるものであるから,そのような外観の相違を考慮してもなお,X商標とY各標章とが同一又は類似の役務に使用された場合には,当該役務の出所について混同が生じるおそれがあるというべきである。
 したがって,Y各標章は,X商標と類似するものと認めるのが相当である。

注記:下線は、判決文では引かれておりません。実務上、重要と思われる部分に引いております。

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