本文へスキップ

浅尾国際特許商標事務所は、神奈川県から特許・実用新案・意匠・商標などの知的財産の創造・保護・活用を支援する国際特許事務所です。         

TEL. 0467-67-3676

お電話受付時間:9:00〜18:00(平日)

平成22年(ネ)第10076号商標権侵害差止等請求控訴事件

>判例・裁判例 >商標(商標権の侵害)判例・裁判例 >  

事件の概要

 X(控訴人)は,黄色地の花柄風の輪郭の中に英文字で赤く「Chupa Chups」を二段に表記して成り,指定商品を商標法施行令別表第1の第25類の区分に属する「洋服,コート(以下略)」、第9類の区分に属する「理化学機械器具(以下略)」、第18類の区分に属する「かばん金具(以下略)」(以下「本件指定商品」という。)とする登録商標(以下,この商標を「本件商標」といい,その商標登録を「本件商標登録」という。)に係る商標権の管理等を行う法人である。
 Y(被控訴人)は,各種マーケティング・小売業務の遂行及びコンサルティング,通信販売業務等を業とする株式会社であり,平成21年4月以前から,「http://www.rakuten.co.jp/」をトップページとするウェブサイト(以下「被告サイト」という。)において,「楽天市場」という名称で,複数の出店者から買物ができるインターネットショッピングモールを運営している。楽天市場では,出店者の各々がウェブページ(出店ページ)を公開し,当該出店ページ上の「店舗」(仮想店舗)で商品を展示し販売している。
 ところが,Yの運営する楽天市場において,平成21年8月10日以前から,Yと上記ショッピングモールへの出店契約を締結した出店者が,本件商標と類似する標章1〜4(本件標章1〜4)を付した、本件指定商品と同一ないし類似する商品を上記出店ページに販売のために展示していた。
 本件訴訟は,Xが,Yに対し,Yの運営するインターネットショッピングモール(楽天市場)において,本件商品1〜6を展示又は販売することは,Xの上記商標権の侵害に該当すると主張して,商標法36条1項に基づく差止めと,民法709条に基づく損害賠償と遅延損害金の支払を求めた事案である。
 平成22年8月31日になされた原判決は,Yサイト上の出店ページに登録された商品の販売(売買)の主体は,当該出店ページの出店者であって,Yはその主体ではない等として,Xの請求を棄却した。
 Xは、これを不服として控訴した。

判旨

ア:本件におけるYサイトのように,ウェブサイトにおいて複数の出店者が各々のウェブページ(出店ページ)を開設してその出店ページ上の店舗(仮想店舗)で商品を展示し,これを閲覧した購入者が所定の手続を経て出店者から商品を購入することができる場合において,上記ウェブページに展示された商品が第三者の商標権を侵害しているときは,商標権者は,直接に上記展示を行っている出店者に対し,商標権侵害を理由に,ウェブページからの削除等の差止請求と損害賠償請求をすることができることは明らかであるが,そのほかに,ウェブページの運営者が,単に出店者によるウェブページの開設のための環境等を整備するにとどまらず,運営システムの提供・出店者からの出店申込みの許否・出店者へのサービスの一時停止や出店停止等の管理・支配を行い,出店者からの基本出店料やシステム利用料の受領等の利益を受けている者であって,その者が出店者による商標権侵害があることを知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったときは,その後の合理的期間内に侵害内容のウェブページからの削除がなされない限り,上記期間経過後から商標権者はウェブページの運営者に対し,商標権侵害を理由に,出店者に対するのと同様の差止請求と損害賠償請求をすることができると解するのが相当である。けだし,(1)本件におけるYサイト(楽天市場)のように,ウェブページを利用して多くの出店者からインターネットショッピングをすることができる販売方法は,販売者・購入者の双方にとって便利であり,社会的にも有益な方法である上,ウェブページに表示される商品の多くは,第三者の商標権を侵害するものではないから,本件のような商品の販売方法は,基本的には商標権侵害を惹起する危険は少ないものであること,(2)仮に出店者によるウェブページ上の出品が既存の商標権の内容と抵触する可能性があるものであったとしても,出店者が先使用権者であったり,商標権者から使用許諾を受けていたり,並行輸入品であったりすること等もあり得ることから,上記出品がなされたからといって,ウェブページの運営者が直ちに商標権侵害の蓋然性が高いと認識すべきとはいえないこと,(3)しかし,商標権を侵害する行為は商標法違反として刑罰法規にも触れる犯罪行為であり,ウェブページの運営者であっても,出店者による出品が第三者の商標権を侵害するものであることを具体的に認識,認容するに至ったときは,同法違反の幇助犯となる可能性があること,(4)ウェブページの運営者は,出店者との間で出店契約を締結していて,上記ウェブページの運営により,出店料やシステム利用料という営業上の利益を得ているものであること,(5)さらにウェブページの運営者は,商標権侵害行為の存在を認識できたときは,出店者との契約により,コンテンツの削除,出店停止等の結果回避措置を執ることができること等の事情があり,これらを併せ考えれば,ウェブページの運営者は,商標権者等から商標法違反の指摘を受けたときは,出店者に対しその意見を聴くなどして,その侵害の有無を速やかに調査すべきであり,これを履行している限りは,商標権侵害を理由として差止めや損害賠償の責任を負うことはないが,これを怠ったときは,出店者と同様,これらの責任を負うものと解されるからである。
 もっとも商標法は,その第37条で侵害とみなす行為を法定しているが,商標権は「指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する」権利であり(同法25条),商標権者は「自己の商標権・・・を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し,その侵害の停止又は予防を請求することができる」(同法36条1項)のであるから,侵害者が商標法2条3項に規定する「使用」をしている場合に限らず,社会的・経済的な観点から行為の主体を検討することも可能というべきであり,商標法が,間接侵害に関する上記明文規定(同法37条)を置いているからといって,商標権侵害となるのは上記明文規定に該当する場合に限られるとまで解する必要はないというべきである。
イ:そこで以上の見地に立って本件をみるに,Yは,インターネットショッピングモールを運営しており,出店者から出店料・システム利用料等の営業利益を取得していたが,所定の展示1については,展示日から削除日まで18日を要しているが,Yが確実に本件商標権侵害を知ったと認められるのは代理人弁護士が発した内容証明郵便が到達した平成21年4月20日であり,同日に削除されたことになる。また,所定の展示2については,展示日から削除日まで約80日を要しているが,Yが確実に本件商標権侵害を知ったと認められるのは本訴訴状が送達された平成21年10月20日であり,同日から削除日までの日数は8日である。さらに,所定の展示3については,展示から削除までに要した日数は6日である。
 以上によれば,ウェブサイトを運営するYとしては,商標権侵害の事実を知ったときから8日以内という合理的期間内にこれを是正したと認めるのが相当である。
ウ: 以上によれば,本件の事実関係の下では,Yによる「楽天市場」の運営がXの本件商標権を違法に侵害したとまでいうことはできないということになる。

注記:下線は、判決文では引かれておりません。 又、判決文と異なる記載が一部御座います。

バナ

浅尾国際特許商標事務所

TEL:0467-67-3676
FAX:0467-67-5063


バナ2