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平成22年(ネ)第10084号 販売差止等請求控訴事件

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事件の概要

 X(控訴人)は,「ドーナツ」の文字を横書きして成り,指定商品を第20類の区分に属する「クッション,座布団,まくら,マットレス」(以下「本件指定商品」という。)とする登録商標(以下,この商標を「本件商標」といい,その登録商標を「本件登録商標」という。)の商標権者である。
 Y(被控訴人)は,「ドーナツ」の文字と「クッション」の文字とを横書きに2段併記してなる標章(以下「Y標章1」という。)を包装に付したクッション(以下「Y商品」という。)を販売し,又は販売のために展示し,青色の「ドーナツクッション」の文字からなる標章(以下「Y標章2」という。)をY商品に関する広告(被告カタログ,被告ウエブサイト)に使用していた。
 Xは、Yに対し,Y使用の上記各Y標章は、本件登録商標にそれぞれ類似する標章であるから,Yの上記各行為は,Xの商標権の侵害行為に当たると主張して,商標法36条に基づいて,各Y標章を包装に付したY商品の販売等の差止め等を求めるとともに,商標法36条,民法709条に基づいて,損害賠償と遅延損害金の支払を求めた。
 原判決は,@Y商品の包装箱に付したY標章1の使用,Yのカタログ及びYのウエブサイトにおけるY標章2の各使用は,いずれも,Y商品が中央部分を取り外すと,中央部分に穴のあいた輪形に似た形状のクッションであることを表すために用いられたものと認識させるものであって,商品の出所を想起させるものではないと認められ,商標としての使用(商標的使用)には当たらないから,「登録商標に類似する商標の使用」(商標法37条1号)に該当することを前提とする商標法36条に基づく差止請求及び民法709条に基づく不法行為損害賠償請求は理由がない旨判断して,Xの請求を棄却した。
 Xは、これを不服として控訴した。

判旨

(1) Y商品の包装箱におけるY標章1の表記について
ア Y商品の包装箱の表記態様について
 @Y商品の包装箱には,Y標章1が合計5個(表面,裏面,右側面,上面及び下面(底面)に各1個)表示されているところ,表面,裏面及び右側面のY標章1は,Y商品の本体について,取り外された楕円筒形の中央部分とその取り外し後に楕円形の穴があいた本体のイメージ図と一緒に表示されていること,AY商品の包装箱の表面には,テンピュール商標1及び『中央にスーパーソフトな素材を用いてデリケートな部分を優しくサポート お産の後の妊婦さんや痔でお悩みの方などにお薦めのシートクッション。中央部分にはスーパーソフトなテンピュールRを用いて安らげる座りごこちを提供します。』との説明文が,裏面には,テンピュール商標1及び『・・・スーパーソフト部分は着脱が可能となっています。』との説明文が表示されていること,B右側面,上面及び下面(底面)のY標章1は,テンピュール商標1と一緒に表示されていること,CY標章1から中央部分に穴のあいた円形,輪形の形状のクッションあるいはこのような円形,輪形に似た形状のクッションの観念が生じること,D各テンピュール商標(テンピュール商標1ないし3)は,Yが販売する商品とともに全国放送のテレビ番組,新聞,雑誌等でたびたび紹介され,『テンピュール』の標準文字からなるテンピュール商標2は,平成20年7月当時までに,Yが販売する商品の商標として著名となっていたことを総合すると,Y商品の包装箱に接した取引者,需要者は,Y商品の包装箱に付されたテンピュール商標1,及び説明文中の『テンピュールR』の表示をもって,Yの出所表示であると認識すると解するのが相当である。
イ 『ドーナツクッション』の語を付したクッション商品に対する認識
 @『ドーナツクッション』の語を付した多数のクッション商品が,中央部分に穴のあいた円形,輪形及び矩形の形状のクッションの写真や図などとともに,宣伝広告され,販売される例が,存在し,これらの商品は特定の製造者,販売者による商品に限られるものではないことから,一般需要者において,『ドーナツクッション』の語について,特定の出所を表す表記であるとは認識されていないこと,A一般消費者においても,ウエブサイト等の書き込みにおいて,『ドーナツクッション』の語を,特有の形状を有するクッションとの意味で使用しており,特定の出所を示すものとして使用していない例が少なくないこと,B『商品の形状等を指す語』と『商品の種類を指す語』とを前後に組み合わせることによって商品をわかりやすく表記することは,一般に行われていることからすれば,Y標章1の出所識別力は極めて弱いといえる。
ウ 以上の経緯を総合するならば,Y商品の包装箱に接した一般消費者は,Y標章1について,Y商品の本体の形状を示すイメージ図及び上記Aの説明文と相俟って,Y商品が中央部分を取り外すと,中央に穴のあいた輪形に似た形状のクッションであることを表すために用いられたものと認識し,商品の出所を想起するものではないものと認められる。
 そうすると,Y標章1がY商品の包装箱において商品の出所表示機能・出所識別機能を果たす態様で用いられているものと認めることはできないから,Y商品の包装箱におけるY標章1の使用は,商標としての使用(商標的使用)に当たらないというべきである。
(2) 被告ウエブサイトにおける被告標章2の表記について
 Yのウエブサイトの表記態様については,写真に示すとおりであり,@中央部に,Y標章2が表示され,その下にカバーが取り付けられたY商品の写真が掲載されていること,A写真右側に,『スーパーソフトの素材を使用した中央部分は取り外し可能。着座にデリケートになっている方におすすめです。』との説明文が記載されていること,B左側上部に,テンピュール商標3と構成が同一で色彩が異なる標章が掲載されていること,C下部に,『テンピュールはテンピュール・ジャパンの登録商標です』との文章が掲載されていること,DY標章2から中央部分に穴のあいた円形,輪形の形状のクッションあるいはこのような円形,輪形に似た形状のクッションの観念が生じること,E『テンピュール』の標準文字からなるテンピュール商標2は,平成20年7月当時までに,Yが販売する商品の商標として著名となっていたことが認められる。
 上記の事実のほかに,前記(1)のイ記載のとおり,『ドーナツクッション』の語を付したクッション商品に対する一般取引者及び需要者の認識に照らすならば,Y標章2の出所識別力は極めて弱いといえることを総合すると,Yのウエブサイトの上記部分に接した一般消費者においては,Y標章2について,上記説明文と相俟って,Y商品が中央部分を取り外すと,中央に穴のあいた輪形に似た形状のクッションであることを表すために用いられたものと認識し,商品の出所を想起するものではないものと認められる。
 そうすると,Y標章2がY商品のウエブサイトにおいて商品の出所表示機能・出所識別機能を果たす態様で用いられているものと認めることはできないから,Y商品のウエブサイトにおけるY標章2の使用は,本来の商標としての使用に当たらないというべきである。
(3) 被告カタログにおける被告標章2の表記について
 YのカタログにおけるY標章2の表記は,@表表紙の中央上部に,『テンピュールR総合カタログ』,『2009Autumn-2009Winter』との文字,『TEMPUR』の文字,テンピュール商標3と構成が同一で色彩が異なる標章が記載されていること,AY商品を紹介している部分において,上から順に,Y標章2と構成が同一で,文字色が黒色の文字標章,被告商品の写真,『スーパーソフトの素材を使用した中央部分は取り外し可能。着座にデリケートになっている方におすすめです。』との説明文が記載されていること,B裏表紙の中央部に,テンピュール商標3と構成が同一で色彩が異なる標章が記載されていること,Cまた,Yのウエブサイトには,Yの販売に係る他の商品も表記されているが,例えば,『座布団』,『トランジットピロー』,『New トラベルピロー』など,他の商品についても,およそ出所識別を有しない一般名詞が用いられていること,DY標章2から中央部分に穴のあいた円形,輪形の形状のクッションあるいはこのような円形,輪形に似た形状のクッションの観念が生じること,E『テンピュール』の標準文字からなるテンピュール商標2は,平成20年7月当時までに,Yが販売する商品の商標として著名となっていたことが認められる。
 上記の事実に前記(1)のイ記載のとおり,『ドーナツクッション』の語を付したクッション商品に対する一般取引者及び需要者の認識に照らすならば,Y標章2の出所識別力は極めて弱いといえることを総合すると,Yのカタログの上記部分に接した一般消費者においては,上記説明文と相俟って,Y商品が中央部分を取り外すと,中央に穴のあいた輪形に似た形状のクッションであることを表すために用いられたものと認識し,商品の出所を想起するものではないものと認められる。
 そうすると,Y標章2と構成が同一で,文字色が黒色の文字標章がYのカタログにおいて商品の出所表示機能・出所識別機能を果たす態様で用いられているものと認めることはできないから,YのカタログにおけるY標章2と構成が同一で,文字色が黒色の文字標章の使用は,本来の商標としての使用に当たらないというべきである。
(4)以上のとおり,@『ドーナツ』の語には,穴のあいた円形,輪形の形をした物の観念が含まれており,『ドーナツ盤』,『ドーナツ椅子』,『ドーナツスピン』,『ドーナツ星雲』等の『ドーナツ』を冠した複合語の用例が存在していることを総合すると,『ドーナツ』を冠した複合語からは,『ドーナツ』とそれに続く語との間の『型』又は『形』の文字が付加されていない場合であったとしても,『中央部分に穴のあいた円形,輪形の形状の物あるいはこのような円形,輪形に似た形状の物』の観念が想起されること,AY商品の包装箱,Yのウエブサイト又はYのカタログには,その出所識別表示としては,各テンピュール商標が別に存在しており,Y標章1(ドーナツ/クッション)又は2(ドーナツクッション)については,Y商品の本体の形状を示すイメージ図及び包装箱の説明文等と相俟って,Y商品がその中央部分を取り外すと,中央部分に穴のあいた輪形に似た形状となるクッションであることを説明するために用いられたものであると需要者において認識し,商品の出所を想起するものではないといえることなどに鑑みれば,各Y標章は,Y商品の出所識別表示として使用されているものではないと認められるから,その使用が『登録商標に類似する商標の使用』(商標法37条1号)には該当しないというべきである。
(5) 結論
 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原判決は相当であって,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

注記:下線は、判決文では引かれておりません。

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