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平成23(行ケ)10094 審決取消請求事件

>判例・裁判例>商標(商標及び商品・役務の類否)判例・裁判例>

事件の概要

 X(被告)は,「江戸深川七福神」の漢字(標準文字)を横書きしてなる商標(以下,「本件商標」という。)につき,第30類「菓子」を指定商品とする登録商標(以下,「本件商標登録」という。)の商標権者である。
 Y(原告)は,本件商標登録が法4条1項11号等の規定に違反してされたものであるとして,法46条1項に基づき,本件商標登録を無効とすることについて審判を請求した。前記審判では,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決がされた(以下「本件審決」という。)。
 Yは、これを不服として、提訴した。

判旨

(1) 商標の類否判断

 本件商標は,漢字で記載された「江戸」「深川」「七福神」(あるいは「江戸深川」と「七福神」)とから構成されている,いわゆる結合商標であるところ,本件審決が,本件商標を「江戸深川七福神」と一連一体のものとして看取した上で引用商標と比較して,各商標の類否を判断したものであることは,明らかである。
 もとより,商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかも,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断しなければならない(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
 しかるところ,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合において,その構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,原則として許されない。他方,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるものである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。
 そこで,以上説示した見地から,本件商標と引用商標とがいずれも非類似であると判断した本件審決の当否について検討することとする。

(2) 本件商標と引用商標との類否

ア 本件商標から生じる称呼及び観念について
 本件商標は,「江戸深川七福神」の文字を横書きして成るものであり,各文字の大きさ及び書体は同一であって,その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されているものではあるが,「江戸」「深川」「七福神」の各文字部分をその構成部分とするものであることは,視覚上,容易に認識することができるものである。
 そして,本件商標の「江戸」の文字部分は,「東京の旧名。吉原・深川あたりで内神田・日本橋辺を指していった称。」を意味する語,「深川」の文字部分は,「北海道中央部の市。東京都江東区の一地区。」を意味する語,「七福神」の文字部分は,「福徳をもたらす神として信仰される7体の神。大黒天,恵比寿,毘沙門天,弁財天,福禄寿,寿老人,布袋。」を意味する語であるから,本件商標の「江戸」「深川」の文字部分は,「七福神」が所在する地域を意味する語にすぎないものである。
 したがって,本件商標からは,「エドフカガワシチフクジン」という一連の称呼が生じ,また,「江戸の深川地区」に所在する「七福神」といった観念が生じることは否定し得ないが,「江戸深川」の部分から「七福神」の部分と一連となった称呼ないし観念が生じ得るとしても,それ自体で独立した,出所識別標識としての称呼及び観念までは生じないというべきであって,本件商標の称呼ないし観念が「江戸深川七福神」以外に生じる余地がないということはできない。
 そうすると,本件商標からは,「江戸深川七福神」という当該商標の全体に対応した称呼及び観念とは別に,「七福神」の部分に対応した「シチフクジン」の称呼及び「福徳をもたらす神として信仰される7体の神。大黒天,恵比寿,毘沙門天,弁財天,福禄寿,寿老人,布袋。」という観念も生じるといわざるを得ないのであって,本件商標と引用商標との類否判断に際して,本件商標から「七福神」の部分を抽出することは当然に許されるべきものである。
イ 引用商標3から生じる称呼及び観念について
 他方,引用商標のうち,引用商標3についてみると,同商標は,「七福神」の文字を横書きして成るものであり,各文字の大きさ及び書体は同一であって,その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されているものである。
 そして,引用商標3は,「シチフクジン」の称呼及び「福徳をもたらす神として信仰される7体の神。大黒天,恵比寿,毘沙門天,弁財天,福禄寿,寿老人,布袋。」という観念を有するものということができる。
ウ 本件商標と引用商標3との類否
 上記ア及びイによると,本件商標と引用商標3とは,称呼及び観念において共通するものであり,両商標の外観の相違は,出所識別標識としての称呼及び観念が生じない「江戸深川」部分の有無が異なる程度にとどまるものであるから,そのような外観の相違を考慮してもなお,本件商標と引用商標3とが同一又は類似の役務に使用された場合には,当該役務の出所について混同が生じるおそれがあるというべきであって,本件商標は,引用商標3と類似するものと認めるのが相当である。
エ 指定商品の同一性
 本件商標の指定商品は「菓子」であり,引用商標3の指定商品は「菓子及びパン」であるから,両商標の指定商品は同一又は類似であることは明らかである。
オ 本件商標と引用商標1,2,6との類否
 前記アないしエにおいて説示したところは,「七福神」に,地域を示す「お江戸」「大江戸」「深川」が結合された引用商標1,2,6についても当てはまるから,本件商標は,引用商標1,2,6とも類似するものと認めるのが相当である。
(3) 小括
 以上の検討結果によれば,本件商標と引用商標とがいずれも非類似であり,本件商標が商標法4条1項11号に掲げる商標に該当しないとした本件審決の判断は,少なくとも引用商標1ないし3及び6との類否判断を前提にしても,これを是認し得ないことは明らかである。

注記:下線は、判決文では引かれておりません。

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