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平成22(行ケ)10335 審決取消請求事件

>判例・裁判例>商標(商標及び商品・役務の類否)判例・裁判例>

事件の概要

 X(被告)は,「天使のチョコリング」の文字を横書きしてなる商標(以下,「本件商標」という。)につき,第30類「チョコレートを加味してなるリング状の菓子及びパン」を指定商品とする登録商標(以下,「本件商標登録」という。)の商標権者である。
 Y(原告)は,本件商標登録が法4条1項11号等の規定に違反してされたものであるとして,法46条1項に基づき,本件商標登録を無効とすることについて審判を請求した。これに対し,特許庁は,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした(以下「本件審決」という。)。
 Yは、これを不服として、提訴した。

判旨

(1) 商標の類否判断の対象
ア本件商標は,「天使のチョコリング」の文字を標準文字で横書きにし,指定商品を第30類「チョコレートを加味してなるリング状の菓子及びパン」とするものであって,漢字による「天使」と片仮名による「チョコリング」とが格助詞「の」で結び付けられている結合商標である。
イところで,商標法4条1項11号に係る商標の類否判断に当たり,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合において,その構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,原則として許されないが,他方,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるものである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。
(2) 本件商標に係る語句の意味
 そこで,本件商標の構成についてみると,その構成のうち「天使」の語は,「天使の使。勅使」,「神の使者として派遣され,神意を人間に伝え,人間を守護するというもの。セラピム(熾天使)・ケルビム(智天使)など。エンゼル。エンジェル」,「比喩的に,やさしく清らかな人」との意味(「広辞苑第6版」平成20年1月株式会社岩波書店発行),「ユダヤ教・キリスト教・イスラム教などで,神の使者として神と人との仲介をつとめるもの。ペルシャに由来する思想とされる。エンジェル」,「やさしい心で,人をいたわる人。女性についていうことが多い」,「天子の使者。勅使」との意味(「大辞林第3版」平成18年10月株式会社三省堂発行)とされている。
 また,本件商標の構成のうち「チョコ」の語は,「チョコレートの略」との意味(上記「広辞苑第6版」及び「大辞林第3版」)とされている。
 さらに,本件商標の構成のうち「リング」の語は,「輪。環」,「指輪」,「ボクシングやプロレスの試合を行う方形の台」との意味(上記「広辞苑第6版」),「輪。輪状のもの」,「指輪」,「ボクシングやプロレスなどの試合場」の意味(上記「大辞林第3版」)とされている。
 さらにまた,上記によると,「チョコリング」の語は,「チョコレートの輪,環」の意味となる。
(3) 本件商標から生ずる観念及び称呼
本件商標の指定商品は「チョコレートを加味してなるリング状の菓子及びパン」であるところ,上記(2)に照らすと,「チョコリング」については,チョコレート成分含有又はチョコレート味という原材料や品質で,かつ,輪状という形状の菓子又はパンであることを普通に用いられる方法で一般的に表示したものということができるのであって,このような菓子又はパンの品質,原材料及び形状を普通に用いられる方法で一般的な文字で表示した本件商標中の「チョコリング」の部分からは,商品の出所識別標識としての称呼,観念は生じない。
 他方,「天使」との語は,上記(2)のとおりの意味を有するものであって,本件商標の指定商品である「チョコレートを加味してなるリング状の菓子及びパン」についての性状等を表すものではなく,本件商標の指定商品との関係では商品の出所識別標識としての機能を発揮し得るものである。また,本件商標の「天使」との部分は,「チョコリング」との部分と何ら観念的な結び付きも有しないものである。
 以上によると,本件商標については,「天使のチョコリング」全体のほかに,「天使」の部分についての観念及び称呼が生じるものということができる。
イしたがって,本件商標からは,「天使のチョコレート製又はチョコレート味の環状の菓子又はパン」,「天使のようなチョコレート製又はチョコレート味の環状の菓子又はパン」のほかに「天使」という観念が生じ,また,「テンシノチョコリング」のほかに「テンシ」との称呼も生じる。
(4) 本件商標と本件引用商標との類否
ア前記のとおり,本件商標のうち「天使」の文字部分を取り出すことができ,本件商標からは,「天使」との観念及び「テンシ」との称呼が生ずるものである。
引用商標1は,漢字による「天使」の文字を横書きした構成からなるものであり,引用商標1からは,「天使」との観念及び「テンシ」との称呼が生ずるものであって,本件商標と引用商標1とは,同一の観念及び称呼を有するものである。
ウ引用商標2は,平仮名による「てんし」の文字,漢字による「天使」の文字及び片仮名による「テンシ」の文字を上下3段に横書きした構成からなるものである。そして,その中段の「天使」の文字部分は,その上下の「てんし」及び「テンシ」の各文字部分と比較して格段に大きく書かれていることからすると,上下の「てんし」及び「テンシ」の記載は,中段の「天使」の記載の読みを記載したものであって,引用商標2の構成中の「天使」の文字部分が商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものということができ,引用商標2からは,「天使」との観念及び「テンシ」との称呼が生ずるものであって,本件商標と引用商標2とは,同一の観念及び称呼を有するものである。
エまた,本件引用商標は,いずれも,その指定商品に第30類「菓子及びパン」を含むものであって,その指定商品は,本件商標の「チョコレートを加味してなるリング状の菓子及びパン」との指定商品を含むものである。
オそして,本件引用商標の商標権者であるXは,日本有数の菓子・食品の製造・販売等の会社であるところ,Xの商品には,「エンゼルパイ」との菓子があるほか,これまでにも,「エンゼルスイーツ」(平成13年ころ。),「エンゼルレリーフ」(平成8年ころ。),「エンゼルパティシエ」(平成7年ころ。)などの菓子類を販売してきたこと,Xは,明治38年以降,被告の商品に天使(エンゼル)の図柄を採用して付記し始め,時代の変遷とともに態様を少しずつ変遷させながら,本件商標の登録査定時に至るまで,同社のロゴマークに「エンゼルマーク」と呼ぶ天使(エンゼル)を象形化した図柄を採用するとともに,多くの自社商品のパッケージに同図柄を付記し続けてきたこと,Xは,この「エンゼルマーク」に係る多数の商標出願を行って,その保護に努めてきたこと,以上の事実が認められるところ,前記のとおり,「天使」には「エンゼル」の意味があり,「エンゼル」が「天使」の意味を有することは,我が国における一般的な外来語や英語の理解能力を前提にすると,指定商品の取引者や需要者のみならず,一般人においても容易に認識し得る程度のものである。
カそうすると,本件商標と本件引用商標とは,いずれも同一の称呼及び観念を生じるものであって,さらに,日本有数の菓子・食品の製造・販売等の会社である本件引用商標の商標権者であるXが,上記のとおり,本件商標の登録査定時に至るまで,長年にわたり,自社のロゴマークに「天使(エンゼル)」を使用し,自社の商品のパッケージに「エンゼルマーク」を付記してきたことなどの実情をも加え,取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すると,本件商標を,本件引用商標が指定商品として含む「チョコレートを加味してなるリング状の菓子及びパン」に使用した場合に,商品の出所につき誤認混同されるおそれがあるということができる。

注記:下線は、判決文では引かれておりません。又、一部編集しております。

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