事件の概要
X(原告)は、「FANTASY LIFE」の文字を標準文字で表した商標(以下「本願商標」という。)につき,第9類「ダウンロードもしくはインストール可能な家庭用テレビゲームおもちゃ用プログラム及び追加データ」等、第41類「インターネット又はコンピュータネットワークを通じて行うゲーム・画像・映像・音声・音楽の提供」等を指定商品・指定役務とする商標登録出願(以下「本願」といい,本願に係る商標を「本願商標」という。)をしたが,拒絶査定を受けたので,拒絶査定不服審判を請求した。
これに対し,特許庁は,「本件審判の請求は,成り立たない。」旨の審決(以下「審決という。)をした。
Xは、これを不服とし、提訴した。
判旨
(1) 当裁判所は,本願商標と引用商標とは,外観において著しく異なり,観念及び称呼において共通する部分があるものの,引用商標の構成及び取引の実情等を考慮するならば,類似するとは認められないから,本願商標が,商標法4条1項11号に該当するとした審決は誤りであると判断する。その理由は以下のとおりである。
(2) 商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり,複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである(前掲最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決,同平成20年9月8日第二小法廷判決)。
そこで,これを本件についてみると,引用商標は,「fantasy LIFE」の部分と「mabinogi/マビノギ」の部分とからなる結合商標と解されるところ,「mabinogi/マビノギ」の部分は,「fantasy
LIFE」の部分よりも大きく(高さは約5倍,幅は約2倍)かつ特徴的な書体で表され,同部分からは特定の観念を生じないか,物語の題号の1つである「マビノギ」の観念を生じさせるから,造語ないし固有名詞として認識され,取引者,需要者に対して商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる。また,同部分から「マビノギ」の称呼が生じることは明らかである。他方,「fantasy」の語は,「空想,夢想,ファンタジー」を意味する平易な英語であって,「ファンタジー」の語は,コンピュータゲームの分野においてゲームのジャンル(「空想上の人生・生活を体験することを内容としたゲーム」)を指すものとして使用されているから,引用商標の構成中「fantasy
LIFE」の部分は,取引者,需要者にコンピュータゲームのジャンルを示すものと認識されることが多いものと認められ,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるとは認められない。
上記のとおり,引用商標の構成中,「fantasy LIFE」の部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認めることはできず,他方,「mabinogi/マビノギ」の部分から出所識別標識として固有の称呼を生じ,観念を生じ得るのであるから,引用商標の構成中「fantasy LIFE」の部分だけを抽出して本願商標と対比することは許されないというべきである。そして,本願商標と引用商標の構成部分全体を対比すると,両者は外観において著しく異なり,観念,称呼において一部共通するものの,取引の実情を考慮するならば,類似するとはいえない。したがって,本願商標と引用商標の類否について,外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,具体的な取引状況に基づいて全体的に考察すると,本願商標と引用商標が,役務における出所の誤認混同を生じるおそれはなく,両商標は類似しないから,本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした審決の判断には誤りがある。
注記:下線は、判決文では引かれておりません。