事件の概要
X(原告)は,飾り文字で表してなる「Baby」,「Mon」及び,これらよりわずかに小さく表される「chouchou」の各欧文字を3段に配したものの左側にバラのつぼみの図形を配し,「Baby」の欧文字の左斜め上側に羽根のような図形及び交差部を太く表してなる十字図形を配してなる,指定商品を第30類「菓子及びパン,氷菓子,ゼリー菓子,茶,紅茶,コーヒー及びココア」とする登録商標(以下,この商標を「本件商標」といい,その商標登録を「本件商標登録」という。)の商標権者である。
Y(被告)は,本件商標登録が法4条1項11号の規定に違反してされたものであるとして,法46条1項に基づき,本件商標登録を無効とすることについて審判を請求した。前記審判では,「指定商品中,第30類『菓子及びパン,氷菓子,ゼリー菓子』についての登録を無効とする。」との審決がされた(以下「本件審決」という。)。
Xは、これを不服とし、提訴した。
判旨
(1) 本件商標
本件商標は,飾り文字で表してなる「Baby」,「Mon」及び,これらよりわずかに小さく表される「chouchou」の各欧文字を3段に配したものの左側にバラのつぼみの図形を配し,「Baby」の欧文字の左斜め上側に羽根のような図形及び交差部を太く表してなる十字図形を配してなるものである。この構成態様に照らせば,本件商標は,各欧文字と各図形とを組み合わせてなる結合商標であり,各図形部分は,いずれも飾りとして認識され,出所識別標識としての称呼,観念を生じることはないとみるのが相当である。そうすると,本件商標の構成中の「Baby」,「Mon」及び「chouchou」の欧文字部分は,これに接する者をして,その構成中の各図形部分から分離して看取,把握され得るものと認めるべきである。
ところで,「baby」の文字は,「ベビー」と発音されるものであって,「赤ん坊,赤ちゃん」等の意味を有するほか,他の語と結合して「小さい,小型の,子供用の」等の意味をもって複合語を形成するものとしても一般に広く慣れ親しまれた英単語であるところ,「ベビー」の片仮名は,菓子やパンを含む様々な商品分野において,商品が通常の大きさよりも小さなものであることを表すものとして,日常的に使用されているものであるから,本件商標を,その指定商品中の「菓子及びパン,氷菓子,ゼリー菓子」に使用した場合,これに接する取引者,需要者は,本件商標の構成中の「Baby」の欧文字部分について,それが該商品の大きさが通常よりも小さなものであること,すなわち,商品の品質,形状を表したものとして認識するのが通常と推測される。したがって,本件商標の構成中の「Baby」の欧文字からは,出所識別標識としての称呼,観念を生じることはないとみるのが相当である。
そして,「Mon」及び「chouchou」の欧文字部分についてみると,前者が「モン」の読み及び「私の」等の意味を,後者が「シュシュ」の読み及び「お気に入り」等の意味を有するフランス語であるが,我が国においてフランス語がよく普及しているとはいえず,フランス語を履修しなかった通常人が「Mon
chouchou」の意味を理解し難いにしても,本件商標の指定商品である菓子を始めとして,その商品名にフランス語の単語を付することは往々にして行われることからすれば,「Mon
chouchou」がフランス語の単語であり,フランス語の読み方をするものと理解するのが本件商標に接する需要者であると認めることができる。そのフランス語読みは「モンシュシュ」であるが,フランス語を理解しない者も「Mon」がローマ字読みも「モン」であること,「chouchou」の読みが例えば「ショウショウ」あるいは「チョウチョウ」と読む者は通常考えられないことからすると,「Mon
chouchou」はフランス語の読み方のとおり「モンシュシュ」と称呼されるものと認めるのが相当である。
「Mon」はフランス語で「私の」を意味し,「chouchou」は「お気に入り」を意味するところ,これらの単語はフランス語以外では意味をなさないことからすると,「Mon
chouchou」からは「私のお気に入り」の意味合いを想起する以外の観念は生じない。
したがって,本件商標は,その構成中の「Mon」及び「chouchou」の欧文字部分が出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものというべきであり,「Mon」及び「chouchou」の欧文字部分が本件商標の要部であり,その構成文字に相応して,「モンシュシュ」の称呼を生じ,「私のお気に入り」ほどの意味合いを想起させるものといえる。
(2) 引用商標
引用商標は,「MONCHOUCHOU」の欧文字と「モンシュシュ」の片仮名とを上下2段に書してなり,その構成態様に照らせば,下段の片仮名は,上段の欧文字の読みを特定するものとして理解され,上段の欧文字は,本件商標の構成中の「Mon」及び「chouchou」の2つのフランス語の単語を大文字にて書体を同じくし一連にしてなるものであるから,その構成文字に相応して,「モンシュシュ」の称呼を生じ,「私のお気に入り」ほどの意味合いを想起させるものといえる。
(3) 本件商標と引用商標との類否についての検討
本件商標は,その構成中にあって出所識別標識としての要部たる「Mon」及び「chouchou」の欧文字部分に相応する「モンシュシュ」の称呼を生ずるのに対し,引用商標は,その構成文字に相応する「モンシュシュ」の称呼を生ずるものであるから,両商標は,称呼を同一とするものである。
また,本件商標と引用商標とは,いずれもその構成文字に相応して,「私のお気に入り」ほどの意味合いを想起させるものである。
そうすると,本件商標と引用商標とは,外観においては相違するものの,「モンシュシュ」の称呼を同じくし,かつ,「私のお気に入り」ほどの意味合いを想起させる点を共通にするものであるから,これらを総合勘案すれば,両商標は,類似の商標というべきである。
注記:下線は、判決文では引かれておりません。