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平成23(行ケ)10086 審決取消請求事件

>判例・裁判例>商標(商標法上の商品・役務)判例・裁判例>

事件の概要

 X(被告)は,「Blue」の文字と「 Note」の文字との間に、「五線譜」と「五線譜中に配した二重線円」と「二重線円に配した音符」とからなる「音符の図形」を配してなる商標(以下、「本件商標」という。)について、第35類の区分に属する「衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,織物及び寝具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,身の回り品(「ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト」を除く。)の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,菓子及びパンの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,牛乳の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,清涼飲料及び果実飲料の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,茶・コーヒー及びココアの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,加工食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,自動車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,二輪自動車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,自転車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,家具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,台所用品・清掃用具及び洗濯用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,時計及び眼鏡の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,たばこ及び喫煙用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,宝玉及びその模造品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を指定役務とした登録商標の商標権者である。
 Y(原告)は、「BLUE NOTE」又は「ブルーノート」という商標(以下,これらをまとめて「引用商標」という。)を引用して,本件商標の登録は,商標法4条1項15号,19号に該当するなどと主張し,本件商標登録を無効とすることを求めて,審判請求をした(以下「本件審決」という)。
 特許庁は,本件審判を審理し、「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をした。
 Yは、これを不服とし、提訴した。

判旨

本件商標の効力について

 本件商標に係る指定役務は,@「衣料品,飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(「本件総合小売等役務」),及びA「『菓子及びパンの小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供』など取扱商品の種類を特定した上で,それらに属する商品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(「本件特定小売等役務」)からなるものである。
 商標法25条は,「商標権者は,商標登録に係る指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する」旨を規定し,同法37条は,「登録商標に係る指定役務と同一又は類似する役務について,登録商標と同一又は類似商標を使用する行為を侵害とみなす」旨を規定する。したがって,「商標登録の査定ないし商標権の設定登録」は,商標権者に対して,指定役務(類似を含む。)の範囲で,登録商標を使用する独占権を付与する行政行為等である。
 そこで,以下,本件商標中の「小売等役務商標の査定ないし商標登録」の効力の及ぶ範囲について検討する。上記のとおり,「小売等役務商標の査定ないし商標登録」行為は,独占権を付与する行政行為等であるから,独占権の範囲に属するものとして指定される「役務」は,例えば,「金融」,「教育」,「スポーツ」,「文化活動」に属する個別的・具体的な役務のように,少なくとも,役務を示す用語それ自体から,役務の内容,態様等が特定されることが必要不可欠であるといえる。ところで,「小売役務商標」は,上記の,独占権の範囲を明確にさせるとの要請からは大きく離れ,「小売の業務過程で行われる」という経時的な限定等は存在するものの,「便益の提供」と規定するのみであって,提供する便益の内容,行為態様,目的等からの明確な限定はされていない。「便益の提供」とは「役務」とおおむね同義であるので,仮に何らの合理的な解釈をしない場合には,「便益の提供」で示される「役務」の内容,行為態様等は,際限なく拡大して理解,認識される余地があり,そのため,商標登録によって付与された独占権の範囲が,際限なく拡大した範囲に及ぶものと解される疑念が生じ,商標権者と第三者との衡平を図り,円滑な取引を促進する観点からも,望ましくない事態を生じかねない。例えば,譲渡し,引渡をする「物」等(小売の対象たる商品,販売促進品,景品,ソフトウエア,コンテンツ等を含む。)に登録商標と同一又は類似の標章を付するような行為態様について,これを,小売等役務商標に係る独占権の範囲から,当然に除外されると解すべきか否かについても,明確な基準はなく,円滑な取引の遂行を妨げる要因となり得るといえる。
 上記の観点から,本件について検討する。
 まず,「特定小売等役務」においては,取扱商品の種類が特定されていることから,特定された商品の小売等の業務において行われる便益提供たる役務は,その特定された取扱商品の小売等という業務目的(販売促進目的,効率化目的など)によって,特定(明確化)がされているといえる。そうすると,本件においても,本件商標権者が本件特定小売等役務について有する専有権の範囲は,小売等の業務において行われる全ての役務のうち,合理的な取引通念に照らし,特定された取扱商品に係る小売等の業務との間で,目的と手段等の関係にあることが認められる役務態様に限定されると解するのが相当である(侵害行為については類似の役務態様を含む。)。
 次に,「総合小売等役務」においては,「衣料品,飲食料品及び生活用品に係る各種商品」などとされており,取扱商品の種類からは,何ら特定がされていないが,他方,「各種商品を一括して取り扱う小売」との特定がされていることから,一括的に扱われなければならないという「小売等の類型,態様」からの制約が付されている。したがって,商標権者が総合小売等役務について有する専有権の範囲は,小売等の業務において行われる全ての役務のうち,合理的な取引通念に照らし,「衣料品,飲食料品及び生活用品に係る各種商品」を「一括して取り扱う」小売等の業務との間で,目的と手段等の関係にあることが認められる役務態様に限定されると解するのが相当であり(侵害行為については類似の役務態様を含む。),本件においても,本件商標権者が本件総合小売等役務について有する専有権ないし独占権の範囲は上記のように解すべきである。そうだとすると,第三者において,本件商標と同一又は類似のものを使用していた事実があったとしても,「衣料品,飲食料品及び生活用品に係る各種商品」を「一括して取り扱う」小売等の業務の手段としての役務態様(類似を含む。)において使用していない場合,すなわち,@第三者が,「衣料品,飲食料品及び生活用品に係る」各種商品のうちの一部の商品しか,小売等の取扱いの対象にしていない場合(総合小売等の業務態様でない場合),あるいは,A第三者が,「衣料品,飲食料品及び生活用品に係る」各種商品に属する商品を取扱いの対象とする業態を行っている場合であったとして,それが,「衣料品,飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う」小売等の一部のみに向けた(例えば,一部の販売促進等に向けた)役務についてであって,各種商品の全体に向けた役務ではない場合には,本件総合小売等役務に係る独占権の範囲に含まれず,商標権者は,独占権を行使することはできないものというべきである(なお,商標登録の取消しの審判における,商標権者等による総合小売等役務商標の「使用」の意義も同様に理解すべきである。)。「総合小売等役務商標」の独占権の範囲を,このように解することによって,はじめて,他の「特定小売等役務商標」の独占権の範囲との重複を避けることができる。

注記:下線は、判決文では引かれておりません。

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