事件の概要
X(原告)は,発明の名称を「ゴルフ用クラブの展示用支持装置」とする発明につき,特許出願をしたころ、これについて手続補正(以下,「本件補正」という。)を行った上で、設定の登録を受けた(以下,この特許を「本件特許」という。)。
Y(被告)は、本件特許について特許無効審判を請求したところ、特許庁は,「本件特許を無効とする。」との審決をした。
Xは、これを不服とし、提訴した。
判旨
(1) 特許法17条の2第3項は,「第1項の規定により明細書,特許請求の範囲又は図面について補正するときは,誤訳訂正書を提出してする場合を除き,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内においてしなければならない。」と規定しているところ,ここでいう「明細書又は図面に記載した事項」とは,当業者によって,明細書又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。
(2) 本件補正事項が当初明細書等に記載した事項の範囲内にあるか否かを検討する前提として,本件発明に関する特許請求の範囲の記載における本件補正事項の位置付けを検討すると,まず,本件発明に関する特許請求の範囲のうち,「フック部材と,当該フック部材を一つ又は複数着脱自在に取り付ける長尺な連結部材と,上記連結部材の端部に設けたブラケットとからなり,上記フック部材は本体と,上記本体の上部に設けられてゴルフ用クラブのヘッドを支持するヘッド支持部と,上記本体の胴部に上記ヘッド支持部に連なりながら下方に向けて形成されて上記ゴルフ用クラブのシャフト部を挿入させるシャフト案内溝と,上記本体に形成されて上記連結部材を上記本体と交叉する方向に挿入させる溝又は孔とで構成され」との部分は,本件発明であるゴルフ用クラブの展示用支持装置が「フック部材」,「連結部材」及び「ブラケット」から構成されていること並びにこれらの部材等の形状について記載していることが明らかである。
そして,上記の部分に引き続く部分(本件補正事項を含む。)は,本件発明であるゴルフ用クラブの展示用支持装置の特徴について記載しているところ,その特徴とは,「上記連結部材を上記フック部材に挿入し,更に上記連結部材を上記ブラケットを介して展示装置に取付け,次いで上記ヘッド支持部にゴルフ用クラブのヘッドを当てがいながらシャフトを上記シャフト案内溝に挿入して吊り持ちさせながら当該ゴルフ用クラブを展示させること」であると記載されている。この部分のうち,「次いで」との文言は,「つづいて。ほどなく。まもなく。」又は「次に。それから。」(広辞苑第5版)といった時間的な順序関係の意味を有する副詞又は接続詞であるから,これに引き続いて記載されている本件補正事項は,これに先立つ「取付け」る動作との関係では,やはり時間的に遅れて行われるものを意味していることが明らかである。
しかしながら,上記「次いで」との文言は,その前後に記載された各動作の間の時間的な順序関係を明らかにするにとどまり,それに引き続く部分である本件補正事項に属する4つの動作,すなわち@「(ヘッド支持部にゴルフ用クラブのヘッドを)当てがう」こと,A「(シャフトをシャフト案内溝に)挿入」すること,B「(ゴルフ用クラブを)吊り持ちさせる」こと及びC「(ゴルフ用クラブを)展示させる」ことの間の時間的な順序関係まで明らかにするものではない。
(3) 次に,本件補正事項に属する前記@ないしCの4つの動作について検討すると,本件補正事項には,「ながら」という文言が2回にわたって用いられている。そして,「ながら」という文言は,「同時にあれとこれとをする意。」という2つ以上の動作の同時並行関係を意味する場合,すなわち,同時動作のほか,「…のままで。」というように,このような同時並行関係(同時動作)を意味しない場合,すなわち,同時状態があるところ,同時動作の意味を採用した場合には,本件補正事項は,@「当てがう」こととA「挿入」することを同時並行的に行う一方で,B「吊り持ちさせる」こととC「展示させる」ことが同時並行的に行われ,かつ,@及びAの動作群に引き続いてB及びCの動作群が記載されていることから,最初に@及びAの動作群が同時並行的にあり,それに引き続いてB及びCの動作群が同時並行的にあるという時間的な順序関係を意味するものと解釈される。しかし,同時状態の意味を採用した場合には,本件補正事項は,同時並行関係や時間的な順序関係を含意せずに,本件発明の特徴を説明するために@ないしCの4つの動作を並列していると解釈されることになるのであって,本件発明の請求項の記載からは,そのいずれであるかが一義的に明白であるとはいい難い。
そこで,当初明細書等の記載をみると,「ウッドのフェイス面が2つのライン(2a,2b)をたて,よことする平面に当接し,ウッドの下面部が局面(2c)に当接し,」(【0019】)との記載があるところ,ここに「当接」とは,本件補正事項中の@「当てがう」ことと実質的に同義であると解される。
次に,当初明細書等には,「シャフトを2点で線支持するようにして展示し,」(【0014】)との記載及び「2つの突起部(2d,2e)に挟まれた案内部(2f)にシャフトが収まるようにしている。」(【0019】)との記載があるところ,これらの記載は,当初明細書等の図面(【図1】)を参照すると,フック部材の上下方向に2つの突起部(2d,2e)が延在し,その間に凹状に陥没した案内部(2f)が設けられており,この案内部にゴルフ用クラブのシャフトを挿入すれば,シャフトの一側面が上下方向に延在する一方の突起部(2d)に線状に接して支持されるとともに,シャフトの他側面が上下方向に延在する他方の突起部(2e)にも線状に接して支持される結果,ゴルフ用クラブがC「展示させる」状態になることを説明していることが明らかであって,「シャフトを2点で線支持する」及び「案内部(2f)にシャフトが収まる」の各記載は,いずれも本件補正事項中のA「挿入」と実質的に同義であると解される。
以上によれば,当初明細書等の上記各部分は,そこに記載の発明の「フック部材」の形状を説明するに当たり,@「当てがう」動作とA「挿入」する動作及びC「展示させる」動作の同時並行関係又は時間的な順序関係,すなわち同時動作については明確な記載をしていない一方で,上記の「支持するようにして」(【0014】)及び「収まるようにして」(【0019】)との各文言によれば,そこに記載の発明の利用者が@「当てがう」動作とA「挿入」する動作を同時並行的に行い,その結果,時間的な順序関係に従ってゴルフ用クラブがC「展示させる」状態になること,すなわち同時動作を否定しているものでもない。
また,当初明細書等には,「そのためにヘッド部を懸架し線と面で支持し…シャフトが互いに略平行になるようにした。」(【0014】)との記載があるところ,ここに「懸架」及び「支持」とは,いずれも本件補正事項中のB「吊り持ちさせる」ことと実質的に同義であると解され,かつ,ここに「そのため」とは,前後の文脈から「展示するため」であることが明らかであり,本件補正事項中のC「展示させる」ことと同義であるといえる。
したがって,当初明細書等の上記部分は,アイアンクラブを「展示するためにヘッド部を懸架し線と面で支持し…シャフトが互いに略平行になるようにした。」と理解すべきものであるが,そこに記載の発明である展示装置の形状を説明するに当たり,B「吊り持ちさせる」動作とC「展示させる」動作との同時並行関係又は時間的な順序関係,すなわち同時動作については明確な記載をしていない一方で,上記の「そのために(展示するために)…懸架し…支持し」(【0014】)との文言によれば,そこに記載の発明の利用者がB「吊り持ちさせる」動作とC「展示させる」動作とを同時並行的に行うこと,すなわち同時動作を否定しているものでもない。
(4) 以上のとおり,当初明細書等の全ての記載を総合的に判断すると,当初明細書等には,そこに記載の発明の形状に関する説明に当たり,本件補正事項中の@「当てがう」こと,A「挿入」すること,B「吊り持ちさせる」こと及びC「展示させる」ことの4つの動作の同時並行関係又は時間的な順序関係については,これを同時動作を意味すると解する特段の記載がない一方で,これらの動作の間に同時並行関係又は時間的な順序関係があること,すなわち同時動作を意味すると解することを否定しているものでもないから,本件補正事項は,その中に2回用いられている「ながら」との文言が,動作の同時並行関係を含意しない「…のままで。」との同時状態の意味のほかに,「同時にあれとこれとをする意。」との動作の同時並行関係,すなわち同時動作の意味を有するからといって,当初明細書等の記載から導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいい難い。
したがって,本件補正事項を追加する本件補正は,当初明細書等の記載から導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとまではいえず,そこに記載した事項の範囲内においてされたものであるということができるから,特許法17条の2第3項に違反するとはいえない。そして,本件特許に係る【請求項2】ないし【請求項7】は,いずれも本件発明に関する【請求項1】を引用しているから,本件発明についての本件補正に関する上記判断は,本件特許に係る【請求項2】ないし【請求項7】にも同じく妥当することになる。
そして,本件補正事項中の「ながら」が「同時にあれとこれとをする意。」という動作の同時並行関係(同時動作)のみを意味するものと限定的に解釈する本件審決の判断は,その根拠を欠くばかりか,当初明細書等にはこのような上記@ないしCの4つの動作の同時並行関係又は時間的な順序関係についての記載がないから新たな技術的事項を導入しないものとはいえないとすることは,当初明細書等の記載の字句等を形式的に判断するものであって,当初明細書等の全ての記載を総合的に判断しているものとはいえないから,本件審決による本件特許に係る各発明に関する本件補正の適否の判断には誤りがある。
注記:下線は、判決文では引かれておりません。
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